9月27日(火)、ル・メール経済相(Bruno Le Maire)は昨日26日、2023年の予算案を発表し、長引くウクライナ戦争、干ばつ、インフレと先行き不安な中で国民を守ることを最優先にした責任ある予算だと述べました。そのため2700億ユーロ(約37兆5000億円/1ユーロ=約139円)もの巨額の資金を市場調達すること、また各省庁への割り当てなどを明らかにしました。
「守り」の予算、右派「債務削減へ意欲不足」、左派「公務員不足」
インフレの抑制を最優先とした来年のフランス国家予算案は「守りの予算」である事をル・メール経財相は認めています。
過去2年間にわたるコロナ禍で膨らんだ支出は、エネルギー価格の高騰、穀物食糧価格の高騰により来年も抑制することが困難になっています。
しかしながら「使いすぎではないか?」の批判には、電気代の価格抑制などの政策に必要な予算も含め、決して「大判振る舞いではない」と反論しています。
その根拠として、GDPの5%をも占める債務は「安定している」と同氏は説明していますが、専門家の間で来年はこの「高止まり」は持ちこたえられず、債務はさらに増えるとする見方も出ています。
そのため共和党など右派から債務削減への対策がない、バラまきといった批判の声が上がるのは必須と思われます。
経財相は「(債務抑制)を放棄している訳ではない」と反論していますが、一方で来年の公務員の新規採用予定数は10,764人と、決して少なくはない増員が予定されています。
勝ち組は【環境】と【雇用】、不足する教師の昇給も
来年の省庁への予算は、217億ユーロ(約3兆200億円)増額になっています。
最も増えたのは環境と雇用への予算で、環境では« MaPrimeRénov’»(マ・プリム・レノヴ)と呼ばれる、住居の断熱性を高める改築工事への補助金25億ユーロ(約3479億円)を含む60億ユーロ(約8337億円)が上乗せされます。
自身の任期が終了する5年後に完全雇用を目指すマクロン政権は、雇用政策を強化するため、労働および雇用省(ministère du Travail et de l’Emploi)の予算を同じく60億ユーロ増額と厚遇しています。
ロシアのウクライナ侵攻を踏ふまえ、可決すれば防衛費も30億ユーロ(約4165億円)と大幅増となる見込みです。
また、不足が著しい教員の待遇改善として、過去に前例のない大幅ベースアップのための費用として9億3500万ユーロ(約1299億 円)が予算計上されています。
しかしながら、一般の教員の増員は予算に含まれておらず、障害を持つ児童専門の教師の採用(4,000人)が増員されるのみとなっています。
政府は2027年までに児童数が50万人減少することを理由にあげています。
フランスは「1ユーロも無駄にできない」ル・メール経財相
ル・メール経財相は、国家支出全体を見ると昨年8月の改定予算に比べ0.2%減少していると説明し、「予算の上昇がインフレの上昇率よりもかなり低いのは困難」であるとコメントしています。
アタル予算担当相(Gabriel Attal)は、2023年には減少率を1.5%にし、2027年までに歳出額をGDPの57,6 %(2022年)から53,8 %にまで引き下げると発表しました。
予算削減には、来年より医療ラボへの支払額、医薬品の返金額、ドクターストップのルール改正などによる健康保険局の歳出減が見込まれています。
削減の対象として、マクロン大統領の公約である年金制度の根本的な改革が今後議論されることになっています。
インフレ抑制が急務、予算案の国会強行通過も
経財相は、来年50億ユーロ(約6957億円)の税収増が見込めるとし、国家債務をGDP5%以内に収めることができると主張しています。
また、今回発表した予算額の総額は「1ユーロたりとも増やせない」と強調し、野党からの増額要求には応じない構えを見せ、野党による予算通過の妨害があった場合、憲法49条3項(投票なしの可決権)の行使もあり得ることを示唆しました。
執筆:マダム・カトウ