2018年2月26日、フィリップ首相によりフランス国鉄(SNCF)の改革法案が発表されました。そのなかで「今回の改革はフランスの競争力を維持するために避けて通れない」と明言しています。
巨額の負債を抱えるフランス国鉄は長年にわたって改革を迫られてきましたが、果たして2020年の欧州旅客鉄道の自由化に間に合うでしょうか?
2020年欧州鉄道自由化に向けフランスの競争力を問う
従来欧州内の鉄道は、国際線のみ他国の路線への乗り入れが可能で、国内ではその国の鉄道会社しか運行できませんでした。これが自由化になると、例えばドイツやイタリアの鉄道会社がパリ〜ニース間など、フランス国内の路線を運行することが可能になります。
つまり、今までフランス国鉄独占だった国内の鉄道交通市場に競争が生まれます。昨年6月時点で460億ユーロ(約6兆円)の負債を抱え、毎年運賃を好きなだけ値上げしてきたSNCFの競争力が正に疑問視されているのです。
争点は「鉄道員の特権」の見直し
今回の改革の中で最大の争点となるのが、cheminot (シュミノー)と呼ばれる「鉄道員」の資格の改定です。フランスにはCODE DU TRAVAILと呼ばれる労働法がありますが、公務員とも違うこのシュミノーたちの権利は一般の労働法で管理されていません。特権階級ともいえるこの特別な労働法を、徐々に一般のそれに合わせていく事が必要とされています。
これに対し労働組合側は、シュミノー資格の改悪がフランス国鉄の「民営化」への第一歩になるとして反対を表明しています。
シュミノーの資格と一般の労働法との主な違い
1. 鉄道員は終身雇用であり、会社の経済的な理由では解雇されません。
(民間企業では、会社の経営悪化によるリストラもあります。)
2. 条件により運転手、車掌、駅員は50歳~52歳、その他の職種でも55歳~57歳で定年退職できます。
(ちなみに民間企業の定年退職は62歳からです。)
3. 国鉄運賃の割引が本人及び家族にも適用されます。
(毎年約100万人が利用しているとされ、その割引額は約1億ユーロ、日本円で約130億円に相当します。)
4. 鉄道員の有給休暇は年間28日あるほか、好条件で代休をとることができます。
(民間企業の有給休暇は年間25日くらいです。)
歴代の大統領が挫折したフランス国鉄の改革
歴代の大統領が試みては挫折したというこの改革は、フランス政府にとって最も難しい案件の一つといわれています。1995年のジュぺ首相の元での改革は、1ヶ月近いストライキで交通が麻痺し、撤回をしました。
今回も1995年並のストライキが行われるという予想もある中、政府は新法案を夏までに成立させる意思を表明しています。すでに労働組合、国鉄利用者の代表との協議に入っていますが、話し合いで合意に至らない場合は、Ordonnanceと呼ばれる「政府命令」を発令すると発表。組合側はスピード解決をねらう政府にさらなる反発を示しています。
ここ数年フランスでは大規模ストライキは激減。労働組合全体が弱体化しているといわれています。フィリップ首相は「1995年と2018年では組合も変化している」とも発言。交渉への意欲を見せています。
3月22日に大規模ストライキとなるか?
組合は3月22日に大規模なストライキを呼びかけており、1995年の悪夢再来となるのでしょうか?
「国鉄職員の聖域」を脅かす今回の改正案は、マクロン政権の最大の難関といわれ注目を浴びています。
執筆 マダム・カトウ