8月23日(火)、6月から断続的に続く猛暑の影響で、今年の夏フランスでは干ばつによる山火事が多発しています。歴史的な猛暑で気候変動が顕著化し、CO2削減が叫ばれる中、ごく一握りの億万長者がパリ〜ロンドンなどの短距離移動にもプライベートジェット利用していることに非難が集まり、フランス政府も利用制限などを検討しています。
列車で2時間半、パリ〜ボルドー間もプライベートジェット
フランス交通担当政務次官クレモン・ボーヌ(Clément Beaune)氏は20日、プライベートジェットの利用に関する規則を前向きに検討すると発表しました。
猛暑で地上が山火事になり、3万人以上の住民が自宅から避難を余儀無くされる中、SNS上では上空をプライベートジェットで移動する億万長者への非難が飛び交っています。
彼らはパリ〜ボルドー間、パリーロンドン間の移動のみならず、西ロンドンから東ロンドンに移動するだけでもプライベートジェットを利用しています。
こういった短距離の移動に、ごく少数の乗客を乗せ一人当たりのCO2排出量が膨大なプライベートジェットの利用状況は、気候変動による災害が相次ぎいよいよ待った無しのCO2削減が必要とされる今の時代に逆行するものとして、専門の調査団体によりウォッチされています。
飛行機が一機飛ぶごとにCO2が排出されるというだけでなく、そもそもプライベートジェットの行き先のほとんどは、列車でも2時間半以内で行けるところばかりです。
マクロン大統領が「省エネ計画」を発表するなど、国全体でこれまでのエネルギー政策を見直していかなくてはならない中、違法ではないものの、富裕層によるエネルギーの無駄遣いに目をつぶれない状況になっています。
プライベートジェット1時間5,000ユーロ、コロナ禍で利用急増
業界紙「ジェットトラベラー」が2018年に記載した記事によると、プライベートジェットの保有者の平均収入は約15億ユーロ(約2044億円/1ユーロ=約136円)でした。
富裕層の中でもごく限られた層しかジェット機を保有することは困難ですが、近年プライベートジェット会社は1時間約5000ユーロ(約68万円)といった、時間貸しの料金を全面に出すことで、利用客を増やしています。
2020年からのコロナ禍で、定期便を運行する航空会社は軒並みフライトをキャンセルせざるを得なくなり、この傾向は2021年から今年上旬まで続いていました。
そのため、ジェット機を保有していない富裕層の中で、気軽に利用できるプライベートジェットの需要が大きく伸びる結果となりました。
フランス発フライト、10回に1回はプライベートジェット
欧州内で最もプライベートジェットの台数が多いのはイギリスとフランスですが、非営利団体「交通と環境」(Transport & Environment)によると、フランスでは2019年の民間航空機の離陸のうち10回に1回はプライベートジェットで、さらにその行き先の半数は出発地から500km以内だったと報告しています。
こういった富豪のプライベートジェットの利用状況を「監視」するSNSのインフルエンサーもいます。
大富豪、LVMHアルノー氏、一人で1ヶ月にフランス人17年分のCO2排出
78000人ものフォロワーがいる「ラヴィオン・ドゥ・ベルナール」(L’avion de Bernard:ベルナールの飛行機)と称するインスタグラムのアカウントは、フランス一の億万長者、LVMHの代表取締役ベルナール・アルノー氏が乗る同社のプライベートジェットの利用状況をウォッチしています。
同アカウントによると、アルノー氏は今年5月に176トンのCO2を排出しています。
これは一般のフランス人一人が排出するカーボンフットプリント17年分に当たります。
プライベートジェット1回のフライト、ヨーロッパ人一人あたり3ヶ月分のCO2排出
ごく数人しか搭乗しないプライベートジェットが一回のフライトで排出するCO2は、2トンにまで及びます。
非営利団体「交通と環境」によると、ヨーロッパ人一人当たりの1年間のフライトを含む全てのCO2排出量は8.2トンとなっています。
乗客一人当たりにすると、プライベートジェットのCO2排出量は、定期便フライトの5倍から14倍、列車の50倍と、いかに桁外れの悪影響を環境に及ぼしているかがわかります。
フランスにプライベートジェットに対する規制はないのか?
2021年8月に施行された法律で、現在フランスでは列車で2時間半以内の距離のフライトを飛ばすことが禁止されています。しかしながら、この法律は定期便にのみ適用され、プライベートジェットの運行を規制するものではありません。
エコロジー党「禁止を」、政府「規則を強化」
ヨーロッパエコロジー・緑の党(EELV)のフランス書記長ジュリアン・べユー(Julien Bayou)氏は、「富裕層のわがままによるこういったプライベートジェットの使用自体を禁止する時が来た」とメディアのインタビューに答えています。
ボーヌ政務次官も、「一部の国民の行き過ぎた行動に目をつぶるわけにはいかない」と発言していますが、フランス政府が検討しているのは禁止や制限といった厳しい対策ではありません。
政府は、「商用利用のフライトがフランス経済に重要である」ことから、フライトの利用状況の公開や、欧州連合排出量取引制度にプライベートジェットも含めるといった対策を検討しています。
執筆:マダム・カトウ