6月7日(火)、ボルドーワインの生産量におけるビオワインのシェアが過去4年間で2倍に増えています。コロナ禍で健康志向に拍車がかかり、需要が増えたことも要因の一つですが、ボルドーワイン生産者協会(conseil interprofessionnel des vins de Bordeaux :CIVB)部長、ベルナール・ファルジュ(Bernard Farges)氏によると理由は別のところにあるようです。
ビオワイン生産量4年で2倍、農薬の使用増に比例?
今月23日〜26日に開催される恒例「ボルドーワイン祭り」(”Bordeaux fête le vin”)のプレスリリースで、ボルドーワイン生産者協会のファルジュ氏は、ビオワインの生産量が「過去4年間で2倍になった」とその躍進ぶりを讃えました。
その要因について問われると、同氏は「農薬の使用量が増えたため」と答えています。
ビオワイン、ブドウ栽培とワイン製法の両方に規定
2012年にEUで決められた「ビオワイン」(”vin biologique”)の認定には、使用するブドウの生産方法とワインの製法の両方に規定があります。
まず「ビオ農法」(viticulture biologique)で栽培されたブドウを使用します。
製法に関しては細かい規定がありますが、消費者に関心の高い点として、防腐剤(亜硫酸塩)の使用量が伝統的な製法で作られる一般のワインより少なく設定されています。
よく「無農薬」と勘違いする人がいますが、フランスのビオ農法は決して無農薬ではありません。
大まかにいうと「土の手入れ」「害虫駆除」「ブドウの木の手入れ」の3つに規制があり、簡単にいうと化学肥料、除草剤、化学殺菌剤などの使用が禁止されています。
ちなみに「ビオワイン」の名称を使わず、「ビオ農法で栽培したブドウで作られたワイン」(”vin issu de la viticulture biologique“)というワインも数多く売られています。
1991年からEUに存在するこの認証とビオワイン認証の違いは、前者にはワインの製法に関する規制がないことだけです。
ビオ農法で使用する「硫酸銅」は危険か?
ファルジュ氏が「増えた」という農薬は、化学農薬とは異なり自然に存在する成分を混ぜて作ったもので、「ボルドー液」(”Bouillie bordelaise”)と呼ばれ、ビオ農業での使用が許可されています。
ちなみにこの農薬、巨大な農薬会社ではなくボルドーの小規模なワイン生産者が作ったことからこの名前がついています。
農薬使用量の増加の原因を、ヌーヴェル=アキテーヌ(Nouvelle-Aquitaine)地方ビオ農業連盟の会長シルヴィー・デュロン(Sylvie Dulong)氏は「ビオ農法の畑が増えたこと」だとし、しかも使用量が少ない化学農薬に対し、自然農薬は「ある程度の量をまかなくてはならないから」だと説明しています。
ただし、ビオ農法ではボルドー液の使用量にも制限が課されています。
硫酸銅と消石灰で作られるこのボルドー液に「銅」が含まれることから、身体への影響を懸念する声が上がっています。デュロン氏は、農薬として使用される「銅成分」は身体に害のあるとされる「銅」と同じではないと説明しています。
同氏は「化学肥料に含まれる成分のうち体に悪いとされる一部の成分(発がん性物質、遺伝子への影響など)のせいで、全ての農薬が体に悪いと決めつけるのは問題」で、しかも「体に害があるとされる成分を含む農薬は、ほとんどが禁止されている」と述べています。
ビオワインのシェア急増も、ガラスの天井か?
コロナ前の2019年には巷のスーパーで専用コーナーが設置されるなど、ビオワインの需要が大幅に伸び続けていましたが、現在その勢いが落ち着いているようです。
ワインに先立って普及したビオ農法の野菜や果物、牛乳などがここにきて全体の20%から25%のシェアを越えられなくなっていることから、ワイン市場におけるビオワインも今後同じ道を辿るのかが気になるところです。
ファルジュ氏は「スーパーなどからの需要がひと段落したとはいえ、2019年と比較してのこと」だと言います。
コロナでさらなる健康志向
これに関し、ビオ農家連盟のデュロン氏は「コロナ禍で健康志向がより一層高まり、ワインショップなどの熱意は変わらない」としています。
グランクリュの有名シャトー、ビオワイン生産に「後ろ向き」
ボルドーでビオワインのシェアが今以上に伸びるには様々な障害があります。
ボルドーのブドウ畑は他の地方に比べ面責が広く、ビオ栽培への転換には相当な時間を要すること、また伝統製法で作るシャトーとビオワインを作る生産者の間で「亀裂が生まれていること」も問題のようです。
ビオワイン生産者は、畑の面積が狭い個人経営のシャトーがほとんどですが、これまでボルドーワインを牽引してきた、世界的に有名な一等級ワイン、グランクリュの生産者の後ろには、多くの場合グローバルな投資ファンドがあります。
デュロン氏によると「彼らはリスクを取りたがらない」ので、転換にはまだまだ時間がかかりそうです。
執筆:マダム・カトウ