高級化するパリの街…いいことばかりではない都市問題「Bobo化」とは

2021.10.25

サンマルタン運河沿い

以前は治安が良くなかったサンマルタン運河周辺も、おしゃれな店が立ち並ぶエリアに

皆さんはジェントリフィケーション Gentrification という言葉をお聞きになったことはありますか? これは一般的には「ある地域の地価が上がり高級化すること」といった意味で、高級化してしまったためもともと住んでいた人々が移転せざるを得なくなってしまう、という問題を含むこともあります。

ジェントリフィケーションに関する問題はアメリカやイギリスで70年代から注目されましたが、最近ではフランスや日本も含めて世界中で見られるようになりました。今回はこの世界共通の都市問題という視点から、パリの街の変遷を見てみたいと思います。

 

フランス都市部で増えるBoboと、都市問題の関係は

ジェントリフィケーションはフランスでも英語のまま Gentrification と言われることが多いですが、フランス語としてはEmbourgeoisement(ブルジョワ化現象)や Boboïsation(Bobo化)という言葉があるようです。

前者は読んで字の如くですが、後者の Bobo という単語は「Bourgeois-bohème」の略で、フランスではよく聞くスラングです。ある程度金銭的余裕があり、ボヘミアン的な縛られない生き方を好む人たちのことを指し、主に都市部の若い世代に多く見られます。 彼らをターゲットにしたファッションブランドやカフェ、レストランなども増えており、ひとつのライフスタイルとしても定着しています。

Bobo は良家の出身者や社会的地位の高い職業についている人も多いですが、住む場所は堅苦しい高級住宅街ではなく、社会的マイノリティや移民なども多い多様性にあふれた地区を好みます。

こうした地区は低所得者が多いエリアとも重なります。そこに Bobo など金銭的に比較的余裕のある人々が入ってくることで、富裕層向けの開発が進みます。すると開発のために立ち退きを求められたり、地価や物価が上昇したりするため、もともとの住人は住む場所を失ってしまうのです。フランスでジェントリフィケーションが「Bobo化」といわれるゆえんです。

日本での「Bobo化」の例は

日本では京都の西陣地区が最も早い例のようです。西陣地区はもともと織物の町として良いイメージがあったため、日本版Bobo とも言える若い世代の転居先として人気が高かったといいます。そのため老朽化した西陣織の工場がマンションに建て替えられ、その過程で立ち退きや地価・物価の上昇が起こり、元の住民が追い出されてしまったそうです。

 

パリでもその波は確実に

フランスでのジェントリフィケーションは他国と比べると遅かったとされています。その理由として、パリでは家賃が1986年まで政府に統制されていたため、不動産が投資の対象として見られていなかったこと、低所得者向けの社会住宅 「Habitation à loyer modéré 」(通称「HLM」) の整備ノルマが各自治体に課されていること、都市整備がしっかりしていたため低所得者層の住むエリアがパリ市内にはもともと少なかったこと、などが挙げられています。

しかし現在パリでは確実にこの現象が進んでいます。たとえば以前は低所得者層が多く治安の悪かったモンマルトルや北駅周辺、サンマルタン運河周辺、ベルヴィルなどの地区は、Bobo 好みのおしゃれな街に変わってきています。

これらの地区では、八百屋さんがBio食品(有機食品)のみを扱う高級スーパーに変わったり、工場や倉庫の跡地がおしゃれなレストランになったり、老朽化したアパートが綺麗に改装されて大幅に値上げして売られたりしています。もともと住んでいた人には手の出ないエリアになりつつあるのです。

パリ20区にある倉庫を改装した高級レストラン

 

パリ五輪でさらにBobo化が進む?

現在パリでは、2024年のオリンピック・パラリンピック開催に向けて会場の整備が進められています。特にパリの北に隣接するサンドニ市やサントゥアン市にはメイン会場となるスタジアムがあり、その周辺に選手村が建設される計画となっています。

両市ともパリ郊外の街の中では低所得者層が多く、治安もあまり良くないとされる場所です。政府はオリンピック・パラリンピックをグラン・パリ(パリ都市圏)再生の促進剤として位置付けており、この地域は優先的に整備が進められることになるでしょう。

ただ、整備により生活環境向上や治安改善などの効果は見込めるかもしれませんが、こういった郊外の街でもジェントリフィケーションが引き起こされてしまうことを指摘する専門家もいます。

 

街は変わりゆくものだけど…

現在は最新のきれいなブティックが並ぶマレ地区は、以前は周囲から隔離されたユダヤ人街でした。また今では日本人街とも言われるオペラ座横のサンタンヌ通りは、以前は社会的に抑圧されていたLGBTの人々が集まるエリアだったと言われています。

街が変わっていくのは街が生きている証拠でもあり、資本主義の必然でもあるかもしれません。またそれに伴い、治安が改善するなどの良い効果も生まれているのも事実です。ただ、フランス革命を経て les droits fondamentaux de l’homme (基本的人権)という概念を世界で初めて提唱したフランスだからこそ、21世紀の人権のひとつともいえる居住権には最大限に配慮した開発が進められることを願うばかりです。

*Bobo についてはこちらの記事「気ままで優雅!?フランスでよく話題になる「Bobo」って何?」もどうぞ。

執筆 Takashi

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