10月9日(金)、コロナ第二波で1日の感染者が1万人を越える中、フランスのテレワークは「7人に一人」の割合にとどまり、ロックダウン中の「4人に一人」から大幅に減っています。
テレワーク《政府推奨》もロックダウン中から4割減
フランス地方健康管理局(Agence régionale de santé :ARS) のオレリアン・ルソー(Aurélien Rousseau)氏は、コロナウイルスに感染した場所として、全体の26%が「職場」で、これは「学校」の次に多いと発表しています。
また、コロナ感染第二波に突入したフランスではパリやリヨン他、大中都市が《最高警戒レベル地域》に指定されていることから、労働大臣のエリザベート・ボルヌ(Élisabeth Borne)氏は、今月5日に再度「企業は社員に極力テレワーク」をさせるよう記者会見で呼びかけています。
にもかかわらず、現在フランスでテレワークをしている人の割合は全労働者の約14%で、これはロックダウン中の24%の約6割にあたり、大幅に減少しています。
テレワークに《労働者の同意》が必要
フランスでは、企業が一方的にテレワークを導入することはできません。社員にテレワークをさせるには、書面または口頭で労働者の同意が必要です。また、「テレワーク拒否」を理由に社員を解雇することはできません。
労働法専門弁護士、ローラン・パラ(Laurent Parras)氏によると、産業革命以前は職人達は自宅で作業を行なっていましたが、産業革命で彼らは「工場に行って働く」ようになり、現在に至ります。
こういった歴史を経て、現在の労働法は全て「職場にて就労することをベース」に作られています。つまり、テレワークをさせるには労働法を「捻じ曲げる」必要があるのです。
《疫病》を理由にテレワーク強制は企業に得策か?
フランスの労働法は「不可抗力な外的要因が起こった場合、会社は事業の存続と社員の安全を優先する」(L 1222条-11項)と定めています。そのためコロナ禍を理由にテレワークを「強制」することは可能です。
しかし、パラ氏の見解では、会社側は「社員にテレワークを強制させることが得策でない」と思っている傾向があります。
要は、企業幹部は社員をテレワークにすると「子供を学校に迎えに行く」「朝からヨガ教室に行く」など行い生産性が低くなるため、「会社に通勤させたほうが得」だと思っているわけです。
これに対しパラ氏は「社員を会社内で監視した方がいい」という会社側の考え方は間違っており、社員はたとえ「家でパジャマ姿で仕事をしても、生産性を上げることができる」と反論しています。
また、最終的には「結果が出るかどうかで、働いたか否を判断できる」ことから、生産性に関して企業側の偏見もあると指摘しています。
テレワークで生産性が上がる
心理学者で企業コンサルタントのノルウェン・アニエ(Nolwenn Anier)氏は、「テレワークで社員の生産性が下がるといった考え方は、ロックダウン以前なら間違いではなかったかもしれないが、ロックダウン以降に行われた多くの調査から、テレワークで生産性が向上するなどポジティブな結果が見られている」と発言しています。
「金曜はテレワークだから楽」はNG
では、社員側のメンタリティーはどうでしょうか?
「テレワークだからこの日は時間あるわ」と言う人が増えているのも事実です。
パラ氏は、「テレワークの日は暇だと言うのはおかしな話です。会社にいるのと同じだけ忙しくなければなりません」と釘をさし、テレワークが真に浸透するには「双方の信頼関係を築き上げることが重要」で、その為には「社員側のメンタリティーも変わらなければならない」と強調しました。
会社は社交の場、オンラインでは得られない人間関係
仕事の生産性を抜きにして、アニエ氏は心理学的な観点から、どこにいても働ける今の時代にわざわざ「出社」する理由として、「人々に必要な【他人との交流】が職場で十分に得られる」ことを上げています。
自宅で一人仕事をしていると「孤立」してしまいますが、職場に行くことで上司や同僚からの励ましを受けることもできます。感染リスクなどでストレスが溜まりやすい今こそ、オンラインでは得られない人との交流が重要になっています。
第二波も、「コロナ感染の恐怖」薄らぐ
世論調査会社オドクサ(Odoxa)がロックダウン中の4月に行なった調査では、フランス人の71%が「職場での感染が怖い」と回答していましたが、最近の調査ではその割合が54%に減っています。
外出時や公共交通機関内、および職場でのマスク着用が義務になり、「通勤=感染」という意識が薄らいでいることも、テレワークの普及率に影響しているようです。
執筆:マダム・カトウ