フランスに行った方の多くは、どこかでストライキに遭遇したことがあるのではないでしょうか。フランスではストライキは日常茶飯事。交通機関、観光施設、大学、公務員…次から次へといろいろな業界がストライキを展開します。2023年には年金改革に反対するストライキが多発、デモの一部が暴徒化するなど日本でも広く報道されていました。今回は、ストライキに対するフランス人の考え方について、その歴史的背景ととともに考察してみたいと思います。
どこでも誰でもストライキ
フランス語でストライキは、grève や mouvement social と表現されます。日常生活でよく遭遇するのが交通機関によるもの。パリ交通公団(RATP)、国有鉄道(SNCF)、エールフランス、空港運営会社などが頻繁にストを起こし、そのたびに駅や空港が大混乱します。
経営陣を困らせて労働者側の待遇改善の交渉を有利することが目的なので、ストライキは会社のかき入れ時に頻発します。クリスマス休暇時期や夏休み期間のストライキは年中行事です。
かき入れ時という意味では今夏開催されるパリ五輪もまさにそれで、すでにRATPグループは2月5日から9月9日までの間にストを起こす可能性を予告しています。
公務員もこの時期にストをする可能性を発表済です。フランスでは警察や軍隊、司法官など一部を除いて、公務員もスト権が認められているのです。
先日エッフェル塔が職員のストにより閉鎖されたことは日本でも広く報道されました。昨年はパリのゴミ収集員が年金改革に反対してストを起こし、市内にゴミがうず高く積み上がるという事態もありました。
10年以上前に私がフランスの地方都市に留学していた際には、大学統合でポストが減ることを憂慮した職員がストをして大学が閉鎖。教室が使えず一部休講になりました。
このように、どこでも誰でもストライキを起こすのがフランスです。
ストが正式に認められたのは戦後
記録に残っているフランスのストライキ関連の法律は、1791年制定のLe Chapelier法が最初です。フランス革命直後にできたこの法律では結社が禁止され、それが現在ではストライキの禁止と理解されています。この法律は1884年まで効力を持ちますが、共和政と王政が繰り返される中で段階的に結社が認められていくようになります。
20世紀に入ると、まだ法律的には全面解禁ではないものの、ストライキが一般化していきます。その原動力となったのが1936年のフランス初のゼネスト。これがフランス社会に与えた影響は大きく、年間12日の有給休暇と週40時間勤務を義務付ける法律が制定されました。
その後、1946年の先代憲法(第4共和政憲法)で、ストライキをする権利が正式に認められます。フランスでストライキが法的に保証されたのは、意外にも戦後の話なのです。
ストライキはフランス人のDNA?
日本人である私の目には、ストライキによる悪影響にばかり目が向き、なぜ自国の経済に悪影響を与えるような行為をするんだろう、と思うこともあります。また空港や主要観光地などが閉まっていると、旅行者にとってフランスという国のイメージが傷付くことは間違いありません。
一方フランス人にとってストライキは、政府や会社の方向性などに対し自分の意見を表明する手段であり、労働者の権利という認識が根付いています。
考えてみるとフランス革命も旧体制への抵抗から始まっていますし、その後何度も起きた革命も、ストの延長と言えなくはありません。ストライキには、フランス人のDNAに刻まれた革命への精神が見え隠れします。
ストライキとうまく付き合うフランス人
フランス人にとってストライキは日常の一部。生活に支障が出るとストレスは感じるものの、目くじらを立てて怒るよりも、どうにか乗り切る方法を探す方に注力している印象です。
たとえば交通機関のスト中はテレワークにしたり、自転車や電動キックボードなどに切り替えたり、ストが頻発する長期休暇期間中は移動を避けたり。
自分もストライキをする可能性があると考えると他の人のストも許容する必要があり、他人事ではないという意識もあるようです。
ほかにも、ゴミ回収がない時は家中のティッシュをトイレットペーパーにかえてトイレに流す人、ストでライトアップされない不気味なエッフェル塔を珍しがって見に行く人…。
不便でも根気よくたくましく乗り越えていく彼らを見ていると。不測の事態に対応するには、社会にもこれくらいの柔軟性が必要だなと思わされます。
ストライキをも楽しもう
利用者としてはストライキは迷惑ですし、ないに越したことはありません。ただ、しばらくフランスに住んでフランス人の行動を見ていると、ストライキは自分も含め皆の持つ権利であり妨げることはできない、だからうまく付き合おうという考えであることに気づきます。
それによって新しい発見もあり、単調な日常に時々与えられる刺激とも思えるようになりました。旅行中にストライキに遭っても、フランスの文化・習慣のひとつを体験できたと前向きに考えられるようになれば、あなたもフランス人の思考回路が身についたと言えるかもしれません。
執筆 Takashi