2023年10月31日(火)、 マクロン大統領は、ヴィリエー=コトレ(Villers-Cotterêts)に新設されたフランス語国際センター(Cité internationale de la langue française)のこけら落としのスピーチで、「包括書法」(écriture inclusive)に反対し、伝統的なフランス語の維持を支持」を表明しました。その数時間後、元老院、セナ(Sénat)で包括書法の公的な書面への使用を禁止する法案が、激しい議論ののち可決しました。
そもそもフランス語の「包括書法」とは?
包括書法はジェンダー平等に配慮した書法(口頭での表現を含む)で、3つのルールがあります。
1)人につける「タイトル」を性別により使い分ける
例えば、俳優(男優 un acteur / 女優une autrice)など、すでに普段使われているもありますが、通常男性形が性別に関係なく使われている、作者、作家(un auteur / une auteure)、消防士(un pompier / une pompière)や市長(un maire / une maire)など全てを性別に応じて使い分けるというものです。
2)複数形の表記、男女両方が存在する場合、点(points médians)で区切って両方の語尾を入れる
例えば、有権者(l’électeur)を複数形にする場合、現行の男性形だけで表記(les électeurs)せず、女性の有権者(les éléctricres)を合わせて複数形(les électeur.rice.s)を作ります。
3)女、男といった普通名詞を固有名詞として使用しない
人権(droits de l’Homme)など、人を表すつまり男性名詞(homme)を固有名詞として使用しない。よって、人権は”droits humains”と書き換えられます。
「フランス語を守る法」が圧倒的多数で可決
賛成221票、反対 82票で包括書法を公的文書、法的文書、公的機関に提出する文書、企業での労働契約書や社内ルールに使用することを禁止する法案が可決されました。
保守党議員が過半数をしめるセナでの可決に驚きはないものの、左派議員の猛反対による議論が白熱しました。
この法律が実際に施行されると、包括書法が含まれる文書は役所で「無効」とされ、受理されなくなります。
政府、公的機関での使用は2017年、当時のフィリップ首相(Edouard Philippe)により通達で禁止していますが、法律として可決されたのは今回が初めてです。
また、フランスの小中高では、2021年、当時の教育相ブランケール(Jean-Michel Blanquer)教育省の通達で使用が禁止されていますが、大学での使用については触れていません。
包括書法が積極的に?使用されている、ソルボンヌの学生の反応は?
フィガロ紙(Le Figaro)の調べによると、包括書法がフランスの大学で使用されている割合は30%ほどです。
一部の学生たちによると、大学側の作る書面、試験用紙や廊下の張り紙にも使用されるなど「使って行こうという姿勢が見られる」ようです。
一方、取材したテレビCNEWSの「使用すべきか?」の質問には、はっきりと「ノン」と答える学生、また「読むのがややこしいし、書くとなると今までの習慣を変えなくてはならない」、「そもそも使用すること自体が、適切なのかを十分に検討していく必要がある」といった学生もいます。
大学の教員、学生の組合(Union nationale inter-universitaire)のレミ・ペラ(Rémy Perrad)氏は、今のところ一部の教員たちが包括書法を支持しているにすぎませんが、(これが広まれば)フランスの若い世代の将来にとって大問題だ、「フランス語のこれからの存続にかかっている」と述べています。
マクロン大統領は、「男性形は中性、つまり男女を特定しない場合も兼用している」と述べ、これまで通りのフランス語を支持しています。
多くの人にとって慣れ親しんだ言葉を強制的に変えるのは困難ですが、今後若い世代がプライベートで日常的に使用していくことで、抵抗なく変更されるときがくるかもしれません。
フランス語を学習する者として「ただでさえ難しいのに、今更変えないで」と思うのは私だけでしょうか?
執筆:マダム・カトウ