フランスの理系エリート学生が「航空エンジニア」に憧れなくなったワケ

2021.11.24

フランスの理系エリート学生が航空エンジニアになりたくないワケ

11月23日(火)、フランスでエンジニアを養成するエリート学校の学生たちに異変が起きています。これまで人気の高かった航空エンジニアなど「地球温暖化を加速させる職業に就きたくない」と進路変更する学生が増えています。

 

地球温暖化を助長する職業に「就きたくない」エリート学生達

「数学と物理が得意だったから、最先端の技術が集結される航空エンジニアを目指した」と語るグエンダル・ブロシエ(Gwendal Brossier)さん(22歳)は、フランスで航空エンジニアを養成するエリート校、国立民間航空学校(Ecole nationale de l’aviation civile (Enac)で3年間勉強した後、フランス国鉄の予約システム開発技師の就職が決まりました。

飛行機を作ることに「夢がある」と思い、難関を突破して入学し航空エンジニアを目指しましたが、この夏チェコに「列車で旅行した」後、進路を大幅に変更しました。

 

F1なんて「過去の産物」、航空力学の学生

フランスの理工系大学の最高峰であるエコール・ポリテクニック(École polytechnique)の学生で、航空力学を応用したF1のレーシングカーの開発を夢見ていたセドリック・ル・ムエル(Cédric Le Mouël)さんは「もうこんな職業に未来はない」と語っています。

「そもそも個人が乗用車を所有するなんて意味がない。F1なんて不要物の象徴」と言うセドリックさんは、アプリで簡単に借りられるレンタル自転車でパリの街を移動しています。

セドリックさんは「1000馬力のレーシングカーにおける空圧の突破力を計算」するより「人との関わりがある事、自分の手を使って何かを作る職人のような仕事」に魅力を感じています。

宇宙飛行士や戦闘機のパイロットに憧れ、同じく航空エンジニアを目指していたマドレーヌ・ダレンティエール(Madeleine d’Arrentières)さん(23歳)は「気象学」へ進路変更しようか悩んでいます。

 

32000人のエリート学生が「将来の雇用主」達に警告

マドレーヌさんら700人の航空エンジニア学校の卵たちは、昨年仏有力紙の論壇で「航空フライト数の削減」を呼びかけ、今年「エコロジーへの目覚め」と題したマニフェストを発表したところ、32000人もの理系学生達が署名しました。

「もうすぐ私たちは初めての就職をする時期を迎えますが、今私たちが所属している学校や社会は私たちを矛盾に陥れている」と始まるこのマニフェストの中で、学生達は卒業後の雇用主、学校、自治体、官庁、政府に向けて

「環境保護のために自転車で移動しているのに、地球温暖化を加速させ資源の枯渇に一躍買う企業に勤めるのは疑問だ」と訴えています。

授業に「環境問題」皆無、改善要求

これらの学生たちが環境問題に目覚めるきっかけを作ったのは、残念ながら彼らが通うエリート学校の授業ではありませんでした。

彼らの多くは、自らもポリテクニック出身のエンジニアで、企業のCO2排出量を計算するコンサルタント会社「カーボン4」(Carbone 4)を作ったジャン=マルク・ジャンコヴィシ(Jean-Marc Jancovici)氏に影響を受けています。

前述のセドリックさんは出身校、フランス高等航空宇宙学校(Isae-Supeaéro)での環境に関する授業は「たったの4時間」だけで、ほとんどの時間は「ドローンや戦闘機に費やされた」と言います。学校側に授業の改善を求めたところ、現在彼の母校では環境問題の授業が20時間に増やされています。

 

水素で飛ぶ【グリーン旅客機】2035年商業化は無理

マドレーヌさんとグエンダルさんらは今年、政府の交通担当次官ジャン=バティスト・ジェバリ(Jean-Baptiste Djebbari )のイノベーション担当チームの部長に面会する機会を得ましたが、「あなた達は若いエンジニアなんだからもっと前向きに飛行機のカーボン削減に取り組んだらいい」と言われガッカリしています。

グエンダルさんによると、2035年にカーボンゼロの水素航空機の商品化を約束するエアバス(Airbus)社のプロジェクトの実現は期待できません。

また、新しい航空機は商業化の前に5年間にも及ぶテスト期間が義務付けられており、2035年に販売を開始するには、その5年前となるわずか8年後の2030年には新しいテクノロジーを駆使した「緑の旅客機」が完成していなければなりません。

仮に完成したとしても、航空機の買い替えは15〜20年サイクルで行われるため、広く利用されるのは「ずっと先」になります。

 

「高給」より「意味のある仕事」、親は理解しない

同じクラスの学生が新卒で年棒56,000ユーロ(約723万円/1ユーロ=約129円)の大企業に就職して行く中、セドリックさんは「運搬用自転車の開発」をする中小企業に就職を決めました。

年棒は同窓生達の半分ですが、「給与ベース、社用車などのアドバンテージがあるのが良い仕事」という考え方は全くないといいます。

別の学生は「給与が同窓生より低いと言っても、自分の母親の年棒より遥かに高い」と語っていますが、これらの学生に共通する悩みは「自分よりも年上の世代、特に親の世代」に彼らの「選択」が理解されないことです。

「せっかく頑張ってエリート校に入ったのに、なぜ給料の高い仕事を選ばないのか」という両親の価値観を変えるのは簡単ではないようです。

執筆:マダム・カトウ

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