2023年5月12日(金)、昨日11日にパリ五輪の入場券の抽選事前申し込みが終了し、あとは抽選結果を待つだけとなりました。過去に例のない市中開催となるオープニングセレモニーが注目される一方、屋外での開催は安全対策、テロ対策が悩みのタネとなります。内務省はありとあらゆるケースを想定し、空前の規模で警備体制を敷くことになります。
今世紀最大の「貧乏くじ」を引いた? ダルマナン内相
ダルマナン内相(Gérald Darmanin)はオリンピックの警備について尋ねられる度に、「(オリンピックの)警備責任は全て私にあり、私一人にある」と繰り返し発言し、その決意のほどを表明しています。
しかしながら、入場券の抽選に当たった幸運な人たちを尻目に、オリンピック開催の年に内務大臣であることは、貧乏くじに当たったようなものです。
内相は今年1月、警察官組合で行われた新年の挨拶で、オリンピックのスタジアム外での開催は「3500年ぶりだ」なぜなら「過去に例がなく、今回が初めてだから」とその心境を語っています。
スタジアム開催に比べ警備の難度が何十倍も、何百倍も高くなります。
オリンピックという数十億人がテレビで見る世界最大のイベントは、テロリストにとって格好の標的だからです。
広すぎる警備範囲で高リスク、テロリストには格好の標的
セーヌ河岸のうち12キロが開会式会場に利用されます。
すでに90ユーロ(約13,500円/1ユーロ=約150円)から2,700ユーロ(約405,000円)の入場券を購入した観客は、一般道から階段で降りる低い位置、つまり川沿いの埠頭レベルに収容されますが、これだけで10万人が予定されています。
沿道で開会式無料参加に、最大50万人
さらに一般道の沿道に立てば開会式は誰でも見ることができるため、河岸上部には30万人から50万人の観客が見込まれています。
沿道にこれだけの人が無差別に集まるリスクを避けるため、囲いを作り、無料で事前予約をする入場券の発行が検討されています。
また沿道にはアパートが立ち並んでおり、当然オーナーや住人たちはこの時期こぞって世界中から訪れる観戦者や観光客にアパートを貸すことになるでしょう。
入口が限られた「箱」の中に入っているスタジアムと違い、市中では四方八方からテロの標的にされやすく、特に空からの攻撃への対策が困難になります。
開会式だけで45,000人の警察官動員
45,000人もの警官の動員が予定されていますが、ダルマナン内相によると、セーヌ河岸12kmの1kmあたり 3750人、100メートルにつき4人の警官が配備されます。
これに加え、パリ市の市警察、市の職員、さらに軍隊のテロ対策部隊、特殊部隊なども投入されます。
民間警備会社から3,000人も、採用は難航
入場者の荷物検査や警官の不足を補うため、必要人数の25%を民間の警備会社から派遣される警備員で賄うことが予定されています。
しかしながら、コロナ禍以降、特にこの業界自体で人手不足が続いており、現在 Pôle emploi(ポール・アンプロワ=フランスの職安)の協力のもと、採用や研修などが盛んに行われています。
ロンドン五輪では開会式の3週間前、条件を満たせないという理由で民間の主要警備会社が契約を破棄し、結局軍隊の出動が要請されました。
パリ五輪ではこういった事態は何としても避けなければなりません。
人員不足を補うため、警備員の時給の見直しなどが行われている一方、身元確認、犯罪歴などの審査も厳しく行われています。
こういった審査は、すでに採用された45,000人も例外ではありません。
警備は陸、空、海、サイバー
テロリスクを「ゼロに」すべく、4つのチーム、河岸上部(一般道)班、河岸下部(川沿い埠頭レベル)班、セーヌ班、警備班で構成される対策本部が設けられ、「緻密な計画」を合言葉に、すでに数ヶ月にわたり会合を繰り返しています。
特に、2021年の東京オリンピックで実に40億回のサイバー攻撃が行われた教訓から、入場券や開会式の運営に必要な情報、例えば選手団の入場時の船の運行管理、さらには沿道のライティング、警備用の無線に至るまで、厳重な警戒体制を取るための準備が行われています。
テロの脅威から開会式を守るには、特にセーヌ川を守ることが重要になります。
「揺れるが、沈まぬ」、テロの脅威に屈せずパリのシンボル「セーヌ川」で開催
海がないにもかかわらず、パリ市の紋章には帆掛け船が描かれていますが、かつて交易や水運の中心地であったパリにとって、セーヌ川どれだけ重要であったかがわかります。
だからこそ、セーヌ川沿いでの開会式はパリ市民にとって大きな意義があります。
紋章に描かれたラテン語の標語“Fluctuat nec mergitur”は、フランス語で« Il est battu par les flots, mais ne sombre pas »となり、日本語では「たゆたえども沈まず」と訳されています。
「(パリは)揺れても沈まない」というこのスローガンは、2015年、多くのパリ市民の犠牲者を出した同時多発テロ後、「テロに屈しない」と誓うパリ市民の心にとりわけ響きましたが、来年のテロ対策で再びこの言葉が思い出されます。
執筆:マダム・カトウ