10月21日(金)、フランスでもすっかり定着したテレワークですが、金曜日に集中しすぎていることからパリ首都圏交通に異変が起きています。パリを含むイル=ド=フランス地域圏(Île-de-France)でRER(イル=ド=フランス地域圏急行鉄道網)を運営するフランス国鉄のトランシリアン(Transilien)は、「テレワークを金曜日以外の日に」と異例の発表を行いました。
火曜日と金曜日の混雑の差、18%も
「テレワークの日を分散させて」と、トランシリアンのシルヴィー・シャルル(Sylvie Charles)部長はメッセージを発信しました。
現在、パリおよびパリ郊外でRERや国鉄、パリ地下鉄(RATP)を利用している人の数は、2019年対比で80%から85%の割合で推移しています。この数字だけ見れば、確かに利用客数はコロナ禍前と比べ減っているわけですが、実は一部の曜日では逆に増えているのです。
理由は、企業で働く人のテレワーク日が偏っているためです。
今年の春に、都市計画を行うパリ・レジョン研究所(Institut Paris Région)が、トランシリアンの要請でおこなった調査結果によると、最も混雑する日は火曜日で、最も空いている金曜日よりも利用者数が18%も多いことが判明しました。
大混雑、遅延多発で出勤日は「痛勤」、テレワークのメリットが減る
シャルル氏は、皆が同じ日に出勤することで「通勤列車が空いていて楽になる」というテレワークのメリットの一部が失われていると指摘しています。
もともと混雑していた曜日に利用客がさらに増えたことで、車内の混雑だけでなく、ドアに人が殺到して危険な上、乗り降りに時間がかかり、これが遅延などを引き起こしています。
「もう金曜日には出社しない」会社員たち
パリを含むイル=ド=フランス地域圏では、職場の68%が地域全体の6%に集中しています。よって、自宅から職場まで何かしらの移動交通手段が必要になるわけです。
ある調査では、選択の自由がある場合、会社員がテレワークに金曜日を選ぶ理由として「週の最終日を家で過ごす方がゆっくりできて疲れを癒せるから」、「家で仕事をしながら週末にまとめて行う家事ができるから」、もしくは「週末遊びに遠出するのに、早く出発できる、移動が少なくて便利だから」といった結果が出ています。
フランスの会社員、テレワーク週平均2.4日
フランシリアンのシャルル氏は、公共交通機関の「一部の曜日への混雑の集中を避けるため」金曜日を出社日にするよう呼びかけていますが、世論調査会社BVA社によると、金曜日に会社員を出社させることは至難の技のようです。
同社が行った最近の調査では、回答者の4分の1は「金曜日はもう出社しない」と回答し、3分の1は「同僚たちが多く出社しているなら」「対面のミーティングがあるなら」出社すると回答しています。
BVA社は、企業が社員を会社に連れ戻したければ、金曜日にちょっとしたイベントなどを企画することで出社へのモチベーションを上げることを推奨しています。
ちなみにパリを含むイル=ド=フランス地域圏では、労働人口の43%が週平均2.4日テレワークをしています。これを郊外列車の利用者に限定すると、実に55%の労働者が週の半分近くテレワークを行なっています。
ビジネス街のレストラン、商店に打撃
金曜日に出社したくない郊外在住社員の出社が減ると、パリ市内に住んでいる社員も「誰もいないオフィスで仕事するのは意味がない」とテレワークを選び雪だるま式に金曜日のテレワーク率が上がります。
テレワークの金曜日集中は、オフィス街、企業のランチなどで繁盛していたレストランや商店の売り上げにも影響を及ぼしています。
ランチはサンドイッチ片手にテレワーク
フランスホテルレストラン連盟(Umih)の副会長、ジャン・テルロン(Jean Terlon)氏は、コロナ禍以前、テレワークが普及する前から「フランス人の昼食時間は過去10年間で、2時間から20〜30分と大幅に短縮されている」と嘆いています。
同氏によると、お昼はテレワークをしながらサンドイッチをかじる、Uber Eatsなどの宅配で注文したランチをスマホ片手に食べることなどが当たり前になり、閉店するレストランの数が増える一方、経費が少なくて済むテイクアウト店に転換するオーナーも増えています。
テレワークの普及により、パリのレストランでビジネスパーソンが「ゆったり昼食をとりながら商談をする」という光景も徐々に無くなっていくのでしょうか?
執筆:マダム・カトウ