コロナウイルスのワクチン接種率が停滞している現在、フランスまた世界全体で、有効期限の切れたワクチンの廃棄が問題となっています。
世界全体では22億回分のワクチン在庫
ワクチンの廃棄が問題視されるようになった一つのきっかけは、2021年12月にナイジェリア政府によるワクチン廃棄の発表でした。
ナイジェリアでは、ワクチン接種のスピードが上がらない中、欧州諸国からの寄贈によって在庫が増え続けたために、ワクチンの有効期限が切れてしまったのです。
現在、世界全体では22億回分の在庫があるとされますが、問題は収入水準の高い先進国が必要分以上のワクチンを買い占めていることです。
寄贈ワクチンが有効活用されない理由
ストック消費のため、北側諸国は南側諸国へワクチンを寄贈してきましたが、贈られたワクチンの一部は有効期限が短すぎたことで、寄贈先で有効活用されないという問題が生じています。
フランスの「医薬政策における透明性監視機関」(L’Observatoire de la transparence dans les politiques du médicament, OTMeds)のロンデイ氏(Pauline Londeix)によると、北側諸国が寄贈したのは主にジェンセン社やアストラゼネカ社のワクチンで、これらは北側諸国で好まれなかったワクチンだといいます。
また、輸送にかかるロジスティクスの難しさも、ワクチンの有効活用を阻んでいるといいます。
フランスでは22万回分を破棄
フランス保健省保健課(Direction générale de la santé, DGS)によるとフランスでは、ワクチン接種キャンペーンの開始以来、延べ21万8000回分のアストラゼネカ製ワクチンが破棄されました。同社製のワクチンの有効期限は6ヶ月とされています。
なぜアストラゼネカ製?
フランスでアストラゼネカ製のワクチンは、接種後に血栓ができる疑いから2021年7月に流通が停止されました。後にジェンセン製も同様の理由で流通が停止されています。
そしてmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンであるファイザー製またモデルナ製のワクチンのみが、2022年からの政府のワクチン接種キャンペーンの対象とされました。
このようにフランスと同様、欧州各国がアストラゼネカ製のワクチンを敬遠することとなり、さらに価格の安さから、多くの途上国がアストラゼネカ製のワクチンを購入することになりました。
ファイザー製も含まれる
しかし現在、フランスで問題となっているワクチンはアストラゼネカ製に限りません。
ル・モンド紙によると、先進国にあるワクチンのストックのうち、2億4000万回分の有効期限がすでに切れているとされます。このうち最も多い1億6800万回分のワクチンが、欧州諸国でとくに接種がすすんでいるファイザー製なのです。
つまり、本来は欧州諸国で活用されるはずのファイザー製ワクチンも有効活用されずに破棄されてしまうということです。
コロナウイルスの感染者数が微増しているフランスで、今後どのようにワクチン政策を展開するのかが注目されます。
執筆あお
参照
厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A