2025年11月28日(金)、フランス来年度予算の支出カットの一環として、学生への住宅補助金額(APL:Aide Personnalisée au Logement)が凍結され、さらにフランスに来る海外からの留学生への住宅補助の打ち切りが国民議会で可決されました。現在セナ(Sénat:上院)で審議中のこの法案、可決されると2026年7月より、奨学金対象者を除くEU圏以外からの留学生への住宅補助金が打ち切られます。これに対し、学生組合などは強い懸念を表明しています。
住宅補助、APLとは?受給条件に親の年収は無関係
そもそも住宅補助金APLは、学生のためだけにあるわけではなく、年収が一定以下の人が対象となる住宅補助です。
学生を対象としたものは就学支援の一環として、正式には学生住宅補助(APL etudiant)と呼ばれています。
主な条件は、学生本人の年収が、住居のタイプにより6,600ユーロ(約118万円/1ユーロ=約180円)~8,600ユーロ(約155万円)を超えないことです。
この補助金の特徴は、親の年収を考慮する奨学金とは違い、学生自身の収入(及び資産)のみを考慮することです。
学生向け住宅補助、いくら?
学生の収入や住んでいる町、アパートのタイプや家賃(上限あり)によりますが、大体1ヵ月100ユーロ(約18,000円)~200ユーロ(約36,000円)が支給されます。
対象になるかどうかや金額はCAFのシミュレーターで確認できます。
大家さんはAPL対象のアパートとして認定を受ける必要があります。
学生は、公立大学や教育機関だけでなく、APLが認定する学校であれば私立の学校でも受けることが可能ですが、事前に学校が対象になっているか確認することが必要です。
学生住宅補助、2026年7月より、EU圏外の留学生が対象外に
来年度予算がセナで承認されると、フランスへの留学生のうち、EU圏内、EEE(Espace économique européen)圏のアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、およびスイス国籍の学生以外のすべての国からの留学生は、2026年7月1日以降、住宅補助を受けることができなくなります。
海外からの留学生、打ち切り後は「さらに困窮」
アルザス(Alsace)地方で物流の勉強をしているセネガルからの留学生ムハンマドさんは、120ユーロ(約21,600円)の住宅補助以外、親の支援もないため、週18時間ファストフード店で働きながら大学に通っています。彼のような留学生は「たくさんいる」と語っています。
180ユーロ(約32,400円)の補助を受けるハイチ出身のマリーさんは、フランスで5年間法学部で勉強していますが、家賃を抑えるためパリ郊外のアパートから学校まで1時間半かけて通っています。
この件に関する議会の動向を注視していた彼女は、「この補助金は多くの留学生にとって重要で、カットされると学業をあきらめる人もでると思う」と、打ち切りの可決を嘆いています。
支援対象絞りたい政府、APL受給留学生、学生全体のわずか3%だが
政府は、今回の打ち切りの対象となる学生向けAPLの受給者は、フランスで勉強する学生約300万人の「わずか3%に過ぎない」と説明しています。
そして、今後はより支援の必要な困窮する学生への支援に集中する、と表明していますが、学生組合は「奨学金受給へのハードルが非常に高い」ことから、多くの学生がさらに困窮する、と強く反発しています。
フランスへの留学生数、1位はモロッコ、3位に中国
フランスで勉強する留学生の総数は2024年で約33万人で、うち約21万人が大学に在籍、その他12万人にはMBAビジネススクール、私立の語学学校などが含まれます。
高等教育を受ける学生の内訳は、学士課程(大学4年卒)約97,000人、修士課程約95,000人、博士課程約19,000人となっています。
留学生数を国別でみると、一番多いのはモロッコから約36,000人、次いでアルジェリア約28,000人、3位は中国で約23,000人です。4位以降は、セネガル約16,000人、5位イタリア約13,400人、6位チュニジア約13,000人でした。
中国の学生は大学よりMBAやエンジニア
特記すべきは、アルジェリア人の学生の9人に一人が大学を選ぶのに対し、中国の学生は大学にはほぼ在籍しておらず、インド人やアメリカ人の学生同様、MBAが取得できるビジネススクールやエンジニア系の学校を選んでいることです。
フランスのビジネススクールの学生の20%、エンジニア系学校の17%を外国からの留学生が占めています。
フランスの大学生、8人に一人は留学生、博士課程は3割強
フランス政府の公表する数値によると、フランスの大学生の約12%は留学生です。この割合は、学士課程では9.9%ですが、修士課程で15.8%、博士課程になると35%と大幅に増えます。
大学に進学する学生のうち、学生数の多い北アフリカ3国、モロッコ、アルジェリア、チュニジア人は科学系、および医学部に多く在籍しています。
一方、学生数で6位のイタリア、および9位のドイツからなどヨーロッパの学生の半数近くは、文学部を選択しています。
理系に多い留学生
全体的には理科学系が36%、文学部が28%となっています。医学部だけに絞ると、留学生の割合は10%、地元フランスの学生が14%と逆転しています。
高等教育を受けた留学生は、フランス社会の理解を深め、卒業後、フランス社会に貢献したりする可能性を秘めています。
日本人の学生もこれまで恩恵を受けたこの住宅補助、フランスの懐の深さが予算カットでなくなるのは寂しいものです。
執筆:マダム・カトウ













