フランス チップ課税に「ノン」 レストラン業界が猛反発

2025.09.04

2025年9月4日(木)、バイル内閣は来年度予算の財源確保の一環として、カフェやレストランのチップへの課税を検討しています。これに対し業界は猛反発しています。

 

バイル内閣 財政赤字削減に「藁をもすがる?」

バイル内閣は、膨張したフランスの財政赤字削減のため、来年度予算で少なくとも440憶ユーロ(約7兆6005億円/1ユーロ=約173円)の節約を余儀なくされています。

様々な方面からの財源確保が検討されるなか、2022年より非課税だった、つまり申告義務のなかったカフェやレストランのウェイター、ウェイトレスへのチップを給与の一部とみなし、社会保険料や所得税課税をすることが検討されています。

このニュースにレンヌ(Rennes)のレストランで働くウェイターのユーゴ(Hugo)さんは「そんなの無理だね。チップは全部現金だからどうやって課税するんだ?」とコメントし、そもそも金額の把握すら困難な現状を露呈しました。「ウェイターもバーテンも当然納得しないし」と特に気にしていない様子で続けました。

政府は「本気」で検討中

「とうていあり得ない」という現場の声とは裏腹に、ホテル(レストラン)産業連盟(Union des métiers et des industries de l’hôtellerie:UMIH)は、2022年から正式に非課税となっているチップが、「いつ課税対象になってもおかしくない」と危惧しています。

やはりレンヌにある別のレストランのウェイターは、「以前(2022年より前)は、チップの金額を税務署に申告しなくてはならなかった」と語っています。

全額申告していたか?の質問には、「もちろん、レストランで働く他の人たちと同様にね」と、にやりと笑みを浮かべながら答えています。

現実味のない「自己申告制」のチップ課税

つまり、実際は2022年以前も「誰も申告していなかった」という事です。

レンヌのサンジェルマン広場(place Saint-Germain)にあるレストランのバーテンダーは、「チップはちょっとしたボーナス。この店だと月にせいぜい40ユーロ(約6,920円)だよ」と述べています。

彼の同僚が「チップはタバコ買ったり、飲みに行くのに使っている。飲みに行ったら僕もチップをあげるから、もらったウェイターの現金収入になる」というように、「ブラック」で稼いだお金がぐるぐる回っています。

最近はカード支払い時にチップを上乗せする仕組みがありますが、その場合も「レジでチップの分を処理している」(多分、現金から出金)と別のバーテンダーは説明しています。

現金での売り上げをを一部申告しない職人がいますが、ウェイターらも「闇収入」を自分たちでコントロールしています。

先述のユーゴさんは「今は3週間に50ユーロ(約8,650円)ぐらい。チップはキッチンスタッフにも分けるから」ここレンヌでは大した額にはならないと言います。

地元の常連は小銭をくれる程度で、チップをくれるのは観光客です。

パリ、地方に比べチップの額が桁外れに多い

一方、以前働いていたパリでは、うまくやれば日に100ユーロ(約17,300円)~150ユーロ(約25,950円)は稼ぐことができていました。

ユーゴさんの同僚が「なんといっても観光客。アメリカ、ロシア、サウジアラビアからの観光客がねらい目」と言うように、彼らはとても気前よくチップをくれるようです。

 

チップは良いサービスへの「心づけ」、顧客満足への課税はおかしい

アメリカではウェイターのチップは「給料の一部」という位置づけで、「絶対に支払わなければならないサービス料」と言われますが、フランスではあくまでも「良いサービスを受けたから」という前提なので、支払う義務はありません。

それでも、高級レストラン、特にミシュランの星付きレストランでは支払いの時に総額の5~10%ぐらいのチップを置く「暗黙の了解」があります。置かなくても問題にはなりませんが、ちょっと「けち臭い感じ」です。

パリでこういった富裕層の顧客を持つレストランで働くウェイターは、下手すると月に給料と同じぐらいの額をチップで稼ぐこともまれではありません。彼らにとっては、チップ課税の復活はかなりの痛みを伴います。

ホテル(レストラン)産業連盟会長でフランスを代表するシェフの一人、ティエリー・マルクス(Thierry Marx)は、「チップはあくまで良いサービスへのお客さんの評価の印で、特権ではない。そのチップに課税し社会保険料を支払うのは問題」と反発しています。

人手不足のレストラン業界に「とどめを刺す」、導入なら4割が離職?

猛反対の根源には、レストラン業界の人出不足があります。

ただでさえウェイターやバーテンダーの採用に苦労する中、この仕事のわずかなアドバンテージを取り上げてしまうと働く人がいなくなることが危惧されます。

先述のユーゴさんも「チップの申告を店に導入されたら、だれもそのオーナーの店では働かないよ」と断言しています。

世論調査会社イプソスの調査によると、ウェイターの41%が「チップ課税が導入されたら、ウェイター業をやめる」と答えています。

また、レストランオーナーの92%がチップ申告義務、課税再導入に反対しています。

執筆:マダム・カトウ

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