画像は旧フォーマット
2025年9月2日(火)、フランス社会保険の膨大な赤字削減の一環として、会社員が病欠する場合に勤務先に提出する病欠証明書「ドクターストップ」(arrêts de travail)の乱用防止対策強化のため、1日よりこれまで紙だったフォーマットをデジタル認証付きに刷新しました。これにより、これまで偽造が多発していた紙のフォーマットは一切受け付けられなくなりました。
給与保障悪用 偽病欠届がネット販売、被害3,000万ユーロ
フランスの労働法では、会社員がドクターストップで病欠する場合、基本的に最初の3日間は無給ですが、4日目からは国民健康保険(Caisse nationale de l’assurance maladie : Cnam)が無給になる分を病気休業手当金として、1日につき日当の約90%を支給します。
また、公務員も含め、業種別労働協定や企業によっては、最初の3日間の給与は企業が負担します。
有給休暇を消化することなく休めることから、企業への負担なども含め、これまでもドクターストップによる「ズル休み」が問題になっていました。
紙の証明書で簡単に偽造
フランスの医者が発行するドクターストップは、指定用紙に記入するだけだったことから、近年偽物がネット上で横行、10ほどのオンラインサイトで20ユーロ(約3,500円/1ユーロ=約173円)前後で販売されていました。
このニセ用紙による昨年1年間の被害額は、3,000万ユーロ(約52億円)にも上ります。
国民健康保険庁はドクターストップ発行のセキュリティを強化するため、デジタル認証を伴う証明書を新たに導入しました。その結果、今月1日より以前の紙のフォーマットによる申請はすべて却下されます。
過剰ドクターストップ、医師500人が保険庁監督下に
「先生、私調子悪いので8日間のドクターストップください」と言えば、特に何の診察もせず病欠届がもらえた、と最近定年退職した元会社員は述べています。
こういったケースは多々あり長い間問題視されていました。そのため、健康保険庁はこれまでも医者の発行する病欠届減らしに様々な対策を試みています。
ドクターストップ削減20%~30%の目標管理措置、医師は反発
今月1日より、フランス全国で最も病欠届の発行が多い500人の医者は、国民健康保険庁の監督下でドクターストップの発行削減の数値目標が設定され、その達成状況が監視されます。
国民健康保険庁の発表によると、これら500人の医者が発行したドクターストップの数は、類似する症状の患者で比較して、他の医者の2倍以上でした。
削減目標は対象となった医者の発行数によりますが、平均してこれまでの20%から30%減となっています。
これに関し、医師らは「我々の本来の仕事である患者の治療に対する医師の判断を無視し、行政上の評価に重きを置くもの」と反発しています。
仏社会保険、2024年の赤字138億ユーロ、前年比3.7%増
健康保険を含めた社会保険の昨年の赤字額は138憶ユーロ(約2兆3839億円)に達し、前年23年の110億ユーロ(約1兆3173億円)から3.7%、額にして27億ユーロ(約4663億円)増加しています。
政府は国民健康保険の赤字減を推進し、多方面からの見直しを進めています。
ドクターストップ5年で28%増、社会の高齢化だけでは説明できない
2023年の時点で、ドクターストップにかかった費用は総額約100憶ユーロ(約1兆7,890億円)、2019年からの5年間で27.9%も増えています。
その原因の約60%はフランス社会の高齢化による生活習慣病の増加で、残りの40%は、ドクターストップの数と頻度の増加によるものだと見られています。
執筆:マダム・カトウ