Quoique, CC BY-SA 4.0 , ウィキメディア・コモンズ経由で
2025年7月22日(火)、パリ6区にある小さな広場へのフランス大手スーパーチェーン、カルフールの出店に住民が猛反対、多くの著名人を含む3,000人の署名が集まっています。これがフランスの「階級の隔たりを反映している」とSNSで炎上、8月末の開店を前にメディアを賑わせています。
スーパーの出店は「治安悪化」、著名人含む3,000人が署名
パリ6区にある小さな三角広場、ローラン・テルジエフ・パスカル・ドゥ=ボアソン広場(place Laurent-Terzieff-et-Pascale-de-Boysson)、ここにあったおもちゃ屋の後に、大手スーパーチェーンの小規模店「カルフールシティ」(Carrefour City)がオープンすることが決まったことに近隣住民が猛反対、署名運動を行っています。
この広場は建築家アンリ・ソヴァージュが設計し文化遺産に指定されている建物や古くからあるカフェに囲まれ、さらに中央にはワラスの泉と呼ばれる彫刻のような給水場があるなど、スーパーマーケットはこの広場の雰囲気にそぐわないと言えるでしょう。
しかし、署名運動までおこなった住民の反対理由は「美観」以外のところにあります。
店を訪れた客が広場で「ゴミをまき散らす」、夜には「好ましからぬ客層」がお酒を買いに来る、さらに「浮浪者が物乞いに来る」などがこの界隈の治安悪化につながるというわけです。
名門校学生のたまり場
この署名活動を始めた元ジャーナリストのブリュノ・セグレ(Bruno Segré)氏は、「子供たちが学校の給食を食べないでスーパーで体に悪そうなものを買って食べる」や「子供がアルコールに手を出す誘惑にかられるのでは」などと心配している親もいる、と述べています。
確かに親の心配もわからなくもありません。この近所には、パリ第2大学(Université Panthéon-Assas)法学部、モンテーニュ高校(lycée Montaigne)、アルザス校(Ecole alsacienne)、ノートルダム・ドゥ・シオン(Notre-Dame de Sion)校、ちょっと先にスタニスラス校(école Stanislas)といった、エリート輩出する公立及び私立の「名門校」が集まっており、生徒たちはこの広場を待ち合わせ場所に利用しているからです。
署名した著名人として、元大臣のジャック・トゥボン(Jacques Toubon)、人気歌手のアラン・スーション(Alain Souchon)、エッセイストのアラン・フィンキエルクロー(Alain Finkielkraut)、弁護士シルヴィー・トパロフ(Sylvie Topaloff)、俳優のピエール・リシャ―ル (Pierre Richard)らが挙げられています。
6区は「特別な美しい場所」、「労働者階級の集まる」地区とは違う
サンジェルマン=デ=プレ(Saint Germain-des-prés)、サン・シュルビス(Saint Sulpice)教会、そしてルクサンブール公園(Jardin du Luxembourg)など、古き良きパリらしい風情がのこる6区、実はこの区はパリで最も不動産価格が高い場所なのです。
6区は平均で1平米当り15,320ユーロ(約264万円/1ユーロ=172円)と2位でエッフェル塔のあるパリ7区の13,371ユーロ(約230万円)を大きく引き離しています。
エリートと文化人の集まる「高級住宅地」
一般市民には手の届かない「高級住宅地」となって久しいこの地区には、文化人や著名人が多く住んでいますが、こういった「特権階級」の人々が、パリじゅうで見かけるスーパーを極端に「問題視」していることが一般市民の反感をかっているのです。
有力紙ル・モンド(Le Monde)のインタビューに、社会党の国民議会議員セリーヌ・エルヴィユ(Céline Hervieu)は、「6区は特別な場所、モンパルナス派の文化、美しいものがそこら中にある私たちのこの場所を維持したい」と、チェーン店などによる街の「同一化」に反対する発言し、非難の的になっています。
「既得権にしがみつく」エリートに「中産階級蔑視」の非難轟轟
SNSでは「スノッブ」といってあざける人が多い中、「エリートが一般市民を馬鹿にしている」、「スーパーができると一般市民が買い物に来て治安が悪化するとは何事だ」などと階級差別問題に議論が発展しています。
パリ共産党員であるイアン・ブロサ(Ian Brossat)上院議員は皮肉を込めて、「このご立派な皆さんは、その地域に最近建てられた低所得者向け住宅にもちゃんと生き延びたではないか」と指摘しています。
区長、思わぬ住民の猛反対で苦肉の策
保守系右派のジャンピエール・ルコック(Jean-Pierre Lecoq)区長は、本件に関し「そもそも区長には権利がなく、判断はパリ市にゆだねられている」と述べています。96年にマクドナルドの出店に反対した区長は、「スーパーの出店が治安の悪化に影響するとは思えない」としつつも、カルフール側に22時閉店の約束を取り付けたと述べ、メンツを保ったようです。
執筆;マダム・カトウ