2024年11月19日(火)、欧州議会で現在協議が行われているEUとメルコスール(南米南部市場)との自由貿易協定に猛反対するフランスの農家が18日より各地で大規模なデモを行っています。南米からの安い農作物の輸入でフランス産が現在よりさらに厳しい競争にさらされることから、FNSEA(Fédération nationale des syndicats d’exploitants agricoles)をはじめとする農家の組合は集会を開き、トラクターやトラックでパリ市内を行進、さらに県道や高速道路の一部を封鎖するなど強硬策にでています。
EUと南米の自由貿易協定、フランスの農家にさらなる危機
「メルコスール」(Mercosur)とはスペイン語の”Mercado Común del Sur”の略で、南米の貿易圏のことを指します。正式加盟国はアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4か国です。
EUとメルコスールの自由貿易協定が締結されると、欧州からは車などの工業製品、医薬品などが輸出され、南米からは肉や米、砂糖といった農産物や食料品が、低い関税額もしくは非課税で輸入されることになります。
フランスの農家が置かれている状況はすでに収益面で厳しく、EUの厳格な規定による設備投資、2年半前のウクライナ侵攻から始まったエネルギーや肥料の高騰、さらにインフレによる購買力の低下による買取価格のさらなる値下げ圧力などで一層厳しい経済状況にさらされています。
今年の2月にも「農家が農業で生きていけない」と、大規模なデモが行われたばかりです。
デモ隊「ヨーロッパ橋」など、象徴的な場所を占拠
デモ隊は各地の県庁前などで抗議集会を開くほか、ヨーロッパ橋」(”pont d’Europe”)など、EUを象徴する名前の付く場所も一部封鎖するなどの行動に出ています。
17日の夜、150人余りのデモ隊はパリ西部郊外、ヴェルジー=ヴィラクブレー(Vélzy-Villacoublay)にあるヴィラクブレー空軍基地に通じる県道N118の一部をトラクターやトラックで占拠しました。
今週ブラジルのリオデジャネイロで開催されるG20会議へと向かうマクロン大統領は、この空港から政府専用機で最初の訪問地であるアルゼンチンへと出発しています。
農家は「我慢の限界」
農家の組合で最も過激といわれるCR(Coordination Rurale)は、普段は抗議デモに参加しない農家も今回のデモでは立ち上がり、全体の動員数を増やしています。
19日から「農家の反乱を起こす」と声明をだすなど、抗議デモは勢いを増しています。
実現すれば世界一巨大な自由貿易市場、フランスは阻止できるのか?
EUとメルコスールの協定、実現すると7800万人の巨大な市場が誕生しますが、実は1999年に交渉が開始されましたが、各国の事情が異なる中20年後の2019年にようやく内容が確定されました。
フランスの政治家、農業への関心高く、EUに書簡
フランスの国会議員ら約600人は、先週EU委員長、フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)宛てに書簡を送り、南米産の農産物が欧州のエコロジー基準を満たさずに作られていること、価格の安い農産物の輸入はフランスの農家に不利な競争を引き起こすことが懸念される」という反対意見を表明しています。
政治学者のオリヴィエ・コスタ(Olivier Costa)氏は「自由協定はフランスの高級ブランドやワインなどの輸出には有利だが、(伝統的に農業国である)フランスの農家は常に政治家の関心を引く」とコメントしています。
「協定は最終段階」EU委員長、フランスは「反対」で孤立も他国に根回し中
フォン・デア・ライエン委員長は、協定の締結に賛成するスペインやドイツに急かされており、「協定は締結まで最終段階にある」と発言しています。
決議には欧州理事会メンバー全員の合意が必要で、その後欧州議会で投票による承認が行われます。今回の協定には貿易以外の、各国の主権にかかわる内容も含まれることから、決議簿加盟27ヶ国それぞれの批准が必要になります。
落ちたフランスのEU内の影響力
いずれにしても、フランスは決議を避けるためには欧州の人口の35%以上を占める反対票が必要になります。そのため農業相アニー・ジュヌヴァール(Annie Genevard)は、「現在、オランダ、イタリア、ポーランドと集中的な協議を行っている」と述べています。
EU加盟国内でこの協定に猛反対するのはフランスのみ、マクロン大統領も「手をこまねいているわけではない」が、国民議会選での与党の敗退から「欧州内での発言力も落ちている」、とコスタ氏は指摘しています。
執筆:マダム・カトウ