2023年12月19日(火)、来年1月より、フランスの映画およびTV業界は、完成した作品が制作の際に出したCO2量を算出しなくてはなりません。フランスの映画界は国から多くの補助金を受けていますが、2024年からフランス国立映画アニメセンター(Centre national du cinéma et de l’image animée:CNC)による補助金の受給にはCO2排出量の提出が義務になります。そのため「エコマネジャー」(éco-manager)と呼ばれる聞きなれない職種がこの業界にも登場しています。
環境に悪い業界をよりグリーンに変えるチャンス
映画やドラマの撮影中に出したCO2排出量の内訳は、撮影、および撮影後の編集、および広告宣伝など全ての工程で使用した、
1)電気など、エネルギー量
2)スタッフの食事
3)撮影現場のセット、装飾の制作
4)スタッフや機材の移動
になります。
CO2排出量をまず制作前に見積もり、制作終了後に実際の排出量を計算します。
プロダクションには頭の痛い、補助金のためのCO2量計算
映画、テレビ業界のCO2削減を進める会「エコプロッド」(Ecoprod)の計算によると、テレビ番組1時間あたり約10トン、旅客機でパリ〜ニューヨーク10往復分、これが長編映画になると実に750トンものCO2が排出されます。
業界関係者にとって、CO2量の計算や削減努力は大変な労力ですが、業界の脱炭素を助けるために今では「エコ・マネージャー」という聞きなれない職業が存在します。
映画監督で『セレブリティ・ハンテッド』(”Celebrity Hunted”)などの制作に関わったエチエンヌ・ラブル(Étienne Labroue)氏は、10年前からエコ・マネージャーでもあります。
映画撮影でもゴミ削減、課題は撮影セット
同氏によると、制作準備の早い段階からエコマネジメントを始めれば始めるほど、「より有効な削減効果が望める」ようです。
まず、撮影現場で配るペットボトルのミネラルウォーターをやめて各自水筒を持たせる、これを打ち合わせの段階でも行う事により、ゴミの量が大幅に減ります。
さらに使い捨てのメイク落とし(クレンジングシート)の使用をやめる、撮影用のライトはLEDにかえます。
撮影セット、舞台装飾の使い捨てを避け、セカンドハンド
こういった日常的で細々とした対策も必要ですが、そもそも映画の撮影で最も環境に悪いのは、撮影セットや大道具、小道具、などの舞台装飾です。
これらは撮影に使用された後、大量の粗大ゴミとなるのです。
エコマネージャーのラブル氏は、「セカンドハンド」の装飾材料を使うことを勧めています。
例えばパリの郊外モントルイユ(Montreuil)には、シネマ専用リサイクルショップ(Ressourcerie du cinéma)があります。
パンタン(Pantin)のレザーブ・デザール(Réserve des arts)では、年間25回のファッションショーの舞台装置や装飾で使った資材を回収し、釘やテープ、糊をはがしたり綺麗な状態にして販売しています。
エコロジーに最も配慮した作品を作りたければ、撮影セットを白紙から描かれたデザイン通りに製作するのではなく、手に入るリサイクル資材を元に製作するという「逆転の発想をするべき」だと、ラブル氏は述べています。
CO2排出量の少ない作品により多くの補助金?
現時点で、CNCは「CO2排出量の少ない作品により多くの補助金をだす」と宣言しているわけではありませんが、2019年より撮影現場や管理職により多くの女性を起用することが補助金審査の項目に加わっています。
来年以降、削減努力をした作品に何かしらのボーナスが出る可能性は大いにあります。
クリエイティブな人材が集まる映画業界、エコでもあっと驚かせて欲しいものです。
執筆:マダム・カトウ