2023年12月22日(金)、もうすぐクリスマス、フランスでも多くの家庭では、毎年家族一同が揃って24日の夜にはディナーを食べます。親兄弟だけでなく娘婿、叔父叔母など、たまにしか合わない親戚が一同に集まると、食卓の話題はプライベートから今年起こった世界情勢や政治の話になることもしばしば。議論好きなフランス人、ついつい熱が入り、しまいには喧嘩になってしまうこともあります。せっかくのクリスマスディナーが台無しにならないように、コミュニケーションのプロが、議論の際に「喧嘩を避ける5つのフレーズ」を推奨しています。
1)君の意見は理解できるが…(”Je comprends ton point de vue…”)
ディナーの前のアペロ(”apéro” : 食事の前に軽くお酒と会話を楽しむ時間(口語))で、ジョルジュ叔父さんがイスラエルーパレスチナ戦争の話題を持ち出し、「民間人への爆撃も致し方ない」と発言しあなたは怒り心頭、こういう場合なんと言えばいいでしょうか?
コニュニケーション、特に政治議論の専門家、フィリップ・モロー=シュヴ ロル(Philippe Moreau-Chevrole)氏は、「まず何よりも先に、相手の感情を理解していること、それを歓迎していること、共感していることを認める」ことが大事だと言います。
「(叔父さんの)気持ちわかります。10月6日に起こった事はとてもショックだったと思います。でも僕は…」と切り出すことで、怒りをブチまけるのを避け、その場の雰囲気を少し和らげると、自分の意見が言いやすくなります。
2)この点に関しては、私たちは同意見でしょう…(”On sera d’accord tous les deux sur…”)
次のテクニックは、まず相手との共通点を見つけることです。
議論が上手いことで有名なマクロン大統領ですが、2017年の大統領選の時、極左「屈指ないフランス党(LFI)」のフランソワ・リュファン(François Ruffin)との議論の冒頭で、マクロン大統領はリュファン氏と「同じ高校に通った」と述べています。
大統領選とはなんの関係もない話題ですが、対立する議論の相手との「共通点」を演出するのに成功しています。
マクロン大統領は元々社会党出身ですが、富裕税減税により「金持ちの味方」のレッテルを貼られています。一方、貧困層の味方で、移民系フランス人、反政府主義の支持者が多い極左のリュファン氏ですが、実は大統領と同じ「カトリック系のプライベートスクール」を出ていたわけです。
先述のイスラエルーパレスチナ戦争議論の場合、「戦争は最良の解決策ではない事はお互いにわかっているよね」と言えますし、最近改正された移民法に関しては「移民問題は30年前から同じ議論が繰り返されているから、今ままでのやり方が最良とは言えないという点では同意見だよね」と言った後に自分の意見を言います。
共通点に関しては、議論の所々に挟んで、時々思い出させることが大事です。
そうすることで、意見の優越を競うような事をしてどちらかの気分を害さずに済みます。
3)じゃあ君はどうしたらいいと思う?”Toi, tu proposes quoi ?”
意見が対立している時に「あれもダメこれもダメ」と言い返されるとだんだん腹が立ってきます。
そこで、「じゃあ自分だったらどうする?」と相手を自分の立場に置き換えてもらい、具体的な提案を促します。
「治安が悪い悪いというんだったら、じゃあ自分が内務大臣だったらどうする?」と言うことで、「反対するだけ」がいかに簡単で、「奇跡的な解決策はない」事を思い出させ、提案する立場になった場合の自己矛盾など問題点を提起します。
これは、現与党が国会でよく使う手です。
4)で、それはどこで見たの?”T’as vu ça où ?”
ディナーに舌鼓を打っている最中に、突然「反ワクチン派」の叔父さんが、コロナの時の話を蒸し返して雰囲気をぶち壊し始めたら…。
フェイクニュースが溢れる今、「我々は知らされてないだけで、本当はこうだった」などと言う人が増えました。
自分はバカバカしいと思っていても、そういう態度を表に出してはいけません。
この手の意見に反対するのは骨が折れます。例えば「ワクチンがなければおじいちゃんとおばあちゃんは今晩この席にはいなかったかもしれない」などと言っても平行線を辿るだけなので、「その意見、根拠はどこで見たの?」と議論を避ける方向に持って行きます。
大抵はFacebookなどのSNSから情報を得ていたりします。情報の出処を聞いて、議論の余地を狭める事が重要です。
5)七面鳥のローストのおかわりはいかが?”Est-ce que tu reprends un peu de dinde ?”
そもそも議論の相手をする前に、クリスマスディナーの楽しい雰囲気にふさわしい話題かどうかを見極めたり、喧嘩になる前に止める勇気も必要です。
「その話は今日はやめとくよ」と最初から応酬しないこともありです。
お互いが議論の末に全て同意するのは無理ですので、平行線を辿り始めたら「その話では僕たちは意見が一致しないから今日はもう辞めよう」と、議論を途中で終了させる事もひとつの手です。
絶対に言ってはいけない、NGフレーズ
「それについてのレポート、自分で読んだの?」(”As-tu lu ce rapport ?”)
「エビデンスを出せ」とは相手を言い負かすための殺し文句ですが、大学の弁論大会に出ているわけではない事を忘れないでください。
これを言ってしまうと親戚の叔父さんはあなたに「俺のことを信じていない」「猜疑心の強い人」とレッテルを貼りかねません。
普段、よく知らない人との間で政治と宗教の話はタブーというのがフランス社会の常識ですが、家族の間では無礼講になってしまいがちです。
この5つのフレーズとアドバイスを肝に命じ、クリスマスディナーを楽しんでください。
では、メリークリスマス、そして良いお年を!
Joyeux Noël et bonnes fêtes de fin d’année !
執筆:マダム・カトウ