「er動詞の例外?」シリーズ最終回は ③ commencer, manger… などの動詞についてお話します。
前回までを整理すると、
① acheter, appeler などは「読まなかった e を [ɛ] と読ませるために、アクサン・グラーヴをつけたり一つだった子音を二つにしたりする」(【er動詞の例外?①】)
② préférer, repérer などは「もとは[e] と読んでいた é を [ɛ] と読ませるために、アクサン・テギュをアクサン・グラーヴに替える」(【er動詞の例外?②】)
…のでした。
これに比べ、今回の commencer, manger にアクサン記号は登場しません。
この二つの動詞は一人称複数の活用が特殊で、書いてみると nous commençons , nous mangeons 。前者はc が ç (この髭のような記号をセディーユといいます)になり、後者は g だけだったのが後ろに e がついて ge に変わります。
なぜこのようになるのでしょうか? やはり発音が原因です。
「commencons」にならない理由
commencer はもし普通に活用すると、-ons をつけて *commencons になります。c は後ろに a, o, u が続くと [k] と発音されるので、原形は [kɔmɑ̃se] と読むのにこの活用だけ [kɔmɑ̃kɔ̃] と読むことになってしまいます。
[s] と発音されていたものが特定の人称だけ急に [k] となるのは、これはご法度です。だから [s] の発音を残すために、 ç という別の記号を使うのですね。
ç は後ろにどの母音字が来ても [s] と発音されるので、この問題をクリアできるのです。
「mangons」にならない理由
では manger はどうでしょうか?
こちらもただ -ons をつければ *mangons とつづられ、原形は [mɑ̃ʒe] だったのに [mɑ̃gɔ̃] と発音することになってしまいます。g もやはり a, o, u が後に来ると [g] (「グ」)と発音されるからです。
そこで commencer の例と同様、発音が変わらないよう調整するのですが、ここで特徴的なのが記号を使う代わりに e を入れることです。
また出ました、いつもの e です。
「e」の深い効果
実はここでの e は、子音字 g を確実に [ʒ] と発音させるためだけにつけているものです。g は後ろに e, i が来れば [ʒ] と発音されるので、そのための e なのです。
mangeons は [mɑ̃ʒɔ̃] と発音され、e そのものは一切発音されません。ge は ç と似て、後ろにどの母音字を置いても [ʒ] と発音されるのです(つまり ge という二文字で、発音が一定の一つの記号と考えます)。
このような例は活用以外にも、pigeon [piʒɔ̃] などの単語で確認できます。
e はひょこっと現れては子音字の音を調整して、そしてそのまま消えてしまう(=発音されない)…なんてアクロバティックなこともできます。本当に変幻自在というか神出鬼没というか、不思議なアルファべなのです。
つづりより発音を優先
発音やつづりが語の変形によって変わるときは必ず発音が優先され、それに合わせてつづりを変更します。
言い換えれば、つづりが変わって書くのが大変になるのは構わないけど、発音が変になったり言いづらくなったりする変化は基本的に起きないのです。
c と g は、後ろにつく母音によって発音が変わる特殊なアルファべです。そのため活用の際に c を [s] の音のままにしておきたいときは ç で代用し、g を [ʒ] の音のままにしておきたいときは ge で代用するのです。
「e」を知ることが大切
ここまで -er 動詞の例外とされる単語たちの性質を見てきました。
フランス語の発音をマスターするためには e とどう付き合うかがいかに大切か、少しでもおわかりいただけたなら幸いです。
執筆 アンサンブル講師Hibiki