季節はすっかり冬になり、日本でもフランスでも大雪のニュースが続いています。雪には幻想的な美しさや儚さを感じますよね。そこで今回は、詩人フランシス・ジャムの「雪」をテーマにした詩を2編ご紹介します。
詩人フランシス・ジャムとは?
フランシス・ジャム ( Francis Jammes ) は19世紀のフランスの詩人です。都会よりも自然を好み、フランス南西端のオルデスで散策や採集などをしながら詩作に励みました。1917年にはアカデミー・フランセーズ文学大賞を受賞しています。
素朴なやさしい言葉で書かれた詩が多いので、フランス語初心者の方にも読みやすいと思います。個人的に、フランシス・ジャムはとても好きな詩人の一人です。
ゆっくりな恋を雪で表現したキュンとする詩
まずご紹介する詩は、フランシス・ジャムの連作「哀歌」 ( Élégie ) の中の1つ、「哀歌14番」です。初々しい恋人の様子を詠ったものですが、繰り返しの多い詩のリズムが雪の降りつもる様子と重ねられています。
夏が終わり秋が過ぎ雪が降るころになってようやく愛していると言った恋人関係の進展が、雪の降る静かな場面を背景に詠われています。読むととても穏やかな気持ちになります。
「Élégie quatorzième」Francis Jammes
―Mon amour, disais-tu.
―Mon amour, répondais-je.
―Il neige, disais-tu.
Je répondais: Il neige.
―Encore, disais-tu.
―Encore, répondais-je.
―Comme ça, disais-tu.
―Comme ça, te disais-je.
Plus tard, tu dis: Je t’aime.
Et moi: Moi, plus encore…
―Le bel Été finit, me dis-tu.
―C’est l’Automne,répondis-je.
Et nos mots n’étaient plus si pareils.
Un jour enfin tu dis: O ami, que je t’aime…
(C’était par un déclin pompeux du vaste Automne.)
Et je te répondis: Répète-moi… encore…
日本語訳:「哀歌14番」フランシス・ジャム
―恋人よ、と君は言った。
―恋人よ、と僕は答えた。
―雪が降ってる、と君は言った。
僕は答えた、雪が降ってる。
―もう一度、と君は言った。
―もう一度、と僕は答えた。
―こんなふうに、と君は言った。
―こんなふうに、と僕は言った。
もっと後になって君は言った、愛してる。
そして、僕、僕はもっと愛してると言った。
―美しい夏も終わり、と君は言った。
―もう秋だ、僕は答えた。
僕たちの言葉は、もうあまり似ていなかった。
ある日、君は言った、ねえ、愛してるの…
(広大な秋が仰々しく終わろうとしていたせいだ)
僕は君に答えた、もっと言って…もっと…と。
雪景色を見て想いを馳せる叙情的な詩
次にご紹介する詩は「明けの鐘から夕べの鐘まで」 ( De l’Angélus de l’aube à l’Angélus du soir ) に収録されている1編です。暖炉の前で過去を思い出し、悲しみに暮れている様子を表現しています。
私は読むたびに感情移入して寂しい気持ちになります。雪が降ると理由もなく悲しくなるのは、この詩のせいかもしれません。
「IL VA NEIGER…」 Francis Jammes
Il va neiger dans quelques jours. Je me souviens
de l’an dernier. Je me souviens de mes tristesses
au coin du feu. Si l’on m’avait demandé : qu’est-ce ?
J’aurais dit : laissez-moi tranquille.Ce n’est rien.
J’ai bien réfléchi, l’année avant, dans ma chambre,
pendant que la neige lourde tombait dehors.
J’ai réfléchi pour rien.
A présent comme alors je fume une pipe en bois avec un bout d’ambre.
Ma vieille commode en chêne sent toujours bon.
Mais moi j’étais bête parce que ces choses
ne pouvaient pas changer et que c’est une pose
de vouloir chasser les choses que nous savons.
Pourquoi donc pensons-nous et parlons-nous ?C’est drôle;
nos larmes et nos baisers, eux, ne parlent pas
et cependant nous les comprenons, et les pas
d’un ami sont plus doux que de douces paroles.
On a baptisé les étoiles sans penser
qu’elles n’avaient pas besoin de nom, et les nombres
qui prouvent que les belles comètes dans l’ombre
passeront, ne les forceront pas à passer.
Et maintenant même, où sont mes vieilles tristesses
de l’an dernier ?A peine si je m’en souviens.
Je dirais : laissez-moi tranquille, ce n’est rien,
si dans ma chambre on venait me demander : qu’est-ce ?
日本語訳:「雪が降りそう…」
数日のうちに雪が降りそう。わたしは昨年のことを思い出す。
暖炉のそばでわたしの悲しみを思い出す。
もし誰かが「どうしたの?」と尋ねたら、わたしは答えるだろう。
「放っておいて なんでもないわ」と。
わたしは考えていた。
その前の年、わたしの部屋で、外で重い雪が降っているときに。
なんとはなしに考えていた。
今もあの時のようにわたしは琥珀の吸口のパイプをふかしている。
わたしの古い樫の箪笥は今でも良い香りがする。
けれどわたしは愚か者だ。
物事は変わることが出来ないのに、知っている物事を追い払おうするなんて、
そんなのはただのポーズなのだから。
なぜ、わたしたちは考えたり話したりするのだろう?馬鹿げてる。
わたしたちの涙も口付けも話したりしない。
けれども、わたしたちはそれらを知っている。
そして、恋人の足音は甘い言葉よりもずっと甘い。
人は考え無しに星に名を付けてしまった。
星たちはそんなもの必要としていないのに。
数字が闇の中の美しい惑星が流れることを証明しても、
そのせいで惑星が流れることはない。
今 昨年の悲しみはどこへ行ったのだろう。
かろうじて思い出しはするけれど。
わたしは言うだろう。「放っておいて なんでもないわ。」と。
もし誰かがわたしの部屋にやってきて、わたしに「どうしたの?」と尋ねたら。
まとめ
雪の美しさと恋模様を重ねた詩はとても素敵ですよね。冬のあいだ雪が降りましたら、この2つの詩を思い出していただけたら嬉しいです。
執筆者 ちはる