写真:パリのバーに並べられた多くのスピリッツ
皆さんは「Dry January」をご存じでしょうか。dryには乾燥したという意味のほか「ノンアルコールの」という意味もあり、Dry January は読んで字のごとく「断酒の1月」という意味になります。これは年明けに断酒をしようという英国発祥の流行で、ここ数年フランスでも定着しつつあります。今回はこの Dry Januaryに関するフランスの状況をお届けします。
1月の断酒チャレンジ「Défi de Janvier」
1月に断酒するDry Januaryは、フランス語では「Défi de Janvier(1月のチャレンジ)」と訳されることが多いです。Défi de Janvierはすでにフランスで数百万人規模の広がりを見せ、2024年には約450万人が実践したとのこと。
そのうち約6割は断酒終了後も数ヶ月にわたり酒量が減少したといい、短期的な断酒が飲酒習慣を変える可能性が示唆されています。
この「チャレンジ」の旗振り役はその名もLe Dry Januaryという社会団体。国からの支援は受けていませんが、医療関連団体や民間企業、地方公共団体などをパートナーとしており、その中には大手保険会社のMACIF社やパリ市、リヨン市なども名を連ねています。
写真:ビストロに入ればとりあえずワインで乾杯…という文化は今後も続くか
アルコールに対する意識変化
長年ワイン文化を誇るフランスにおいてこの断酒運動が広がりをみせる背景には、フランス社会の飲酒に関する意識変化、まず何よりも健康リスクに対する認識の変化があるとされています。
近年の研究により低〜中度の飲酒でも疾病リスクが高まることがわかり、フランスの保健当局もアルコールが健康に与える影響を発信しています。そのため「毎日のワインは長寿の秘訣」だったフランス人にも、「アルコール摂取量は少ないほど健康に良い」という新しい認識が広がっているのです。
それにともない近年のアルコール消費量は低下しています。フランス薬物・依存研究所(OFDT、Observatoire français des drogues et des tendances addictives)によると、一人あたりのアルコール摂取量は2023年に過去最低の約10.35リットルとなり、この傾向は今後も続く見込みとのこと。ただアルコール関連による医療利用件数は一部増加しており、今後のデータが注目されます。
そのほか社会的・行動的な要因もあります。もともと「Dry January」は、クリスマスや年末年始でアルコールを過剰摂取しがちな時期のあと、1月には控えようというところから始まっています。この「とりあえず1ヶ月だけ」というシンプルさが参加のハードルを下げていると分析する記事もありました。
また飲酒関連支出や摂取カロリーを可視化できる断酒アプリの存在や、SNS上のコミュニティへの参加で達成感が高められることなども、チャレンジの広がりを支えていると言われています。

写真:毎年9月にボルドーで開催されるメドックマラソンでは、参加者はポイントごとにその土地の特産ワインを飲みながら葡萄畑をフルマラソンする。
飲酒文化と健康維持の両立の新しい形態?
政策的な断酒支援は限定的、その理由は
減酒が進んでいるとはいえ、課題もあります。ワインやシードル、スピリッツなどのアルコール飲料は、フランスの豊かな食文化の構成要因であり地域のアイデンティティです。またフランス経済を支える輸出品であり、国家財政を支える税収源でもあります。
そのためか政策的な断酒支援は現在のところ限定的で、国家主導で大規模に展開されている禁煙キャンペーンのようにはスムーズに進んでいません。メディアや識者は、政府が積極的に支援を行わない理由にワイン業界などとの利害関係を指摘しています。
結果として多くの断酒運動が、市民団体や非営利組織・企業の健康プログラムに依存しているのが現状です。
公的施策との連携がカギ
フランスでの「Défi de Janvier」は伝統的な飲酒文化を守りつつ、健康志向を社会にできるだけ根づかせるチャレンジであるとも言えるでしょう。
「入口」としては確実に機能している一方で、社会全体として持続的な減酒・健康改善を実現するには、税制、広告規制、医療や支援サービスの強化といった様々な政策と組み合わせて包括的に実施していくことが必要です。
今後は市民運動と公的施策の連携がカギになりそうです。
執筆 Takashi













