2025年12月16日（火）、フランス政府は採用時の人種、性別、住所などによる差別への対策を強化するため、20業種の民間企業に合計4000通のテスト用履歴書を送りました。目的は、差別の実態を正確に把握し、今後なにを強化するのか？といった具体的な対策を検討することです。
テスト履歴書で採用時の差別の実態を把握、法改正の布石に
差別防止担当政務次官オロール・ベルジェ（Aurore Bergé）は、「現在採用募集を行っている20業種の企業に対し、大量の履歴書を送る」と発表しました。
その目的について同氏は、人種や性別、住所などによる差別の実態を正確な数値で把握することで、差別の確率が高い業種を割り出し、まずは「なにと戦うべきか」を見極める、と述べています。
調査の結果を踏まえ、今後どのような法改正が必要か、といった対策が検討されることになります。
フランスの履歴書、記載する個人情報は最小限だが
フランスの履歴書には苗字や生年月日の記載義務はなく、顔写真も一部の業種を除き、つける必要はありません。それでもファーストネームが「モハメッド」であればアラブ系というように判別することができます。
また住所では、治安の悪い郊外の地区に住んでいることが「ハンディ」になるケースがあります。年齢も最終学歴の取得年である程度特定できてしまいます。
このように、採用企業が書類選考時に、学歴、職能や職業経験と関係ない要素を加味し、面接する前にふるいにかけていることが、長らく問題視されています。
フランス人の３分の１が、採用時や職場で「何らかの差別」を受けた
国際労働機関（Organisation internationale du travail：OIT）は先週、労働者が採用時及び就労期間に職場で受けた、もしくは感じた差別について調査した結果を発表しました。
それによると、フランスでは採用時に「しばしば差別された」と感じた人は43％、「時々差別された」と答えた人は52％でした。
さらに３人に一人は、過去五年間で採用時もしくは職場において、年齢、性別、出身地（国）、障害、苗字や住所で「差別された」と回答しています。
職場の男女差別、縮まらない給与格差25％
フランス国立統計経済研究所（インセ：INSEE）の発表によると、平均給与の男女格差は過去27年間で、わずか約７ポイントしか縮まっていません。
男性の平均年収は26,110ユーロ（約475,2000円／１ユーロ＝約182円）、一方女性は19,980ユーロ（約363,6000円）で、その差は実に25ポイントと、女性の収入は男性の４分の３にとどまっていることがわかります。
同じ労働時間でも女性は男性より15％低く、昇給でも「差別」
確かに女性にパートタイムが多いことも理由の一つですが、同じ労働時間数で比較しても、女性の方が男性より14.9％低いことがインセの統計で明らかになっています。
さらに、2022年「昇給した」男性は75％いるのに対し、女性は59％にとどまっています。
また、昇給率も男性が5.52％に対し、女性は4.15％でした。
男女差別する企業は男性も「ノン」
しかしながら、「男女差別が顕著な企業」について、女性の74％のみならず、男性の71％も「退職する」と答えています。
採用募集に関しても、女性だけでなく男性も、男女差別が見受けられる企業は「避ける」と答えています。
違反企業への金銭的な処罰が皆無、中小企業は対象外
2018年に政府は労働省のサイト上で、従業員50名以上の企業の採用、及び職場の男女平等指数を公表しています。
100点満点の評価で企業を採点し、75点未満の企業は罰金の対象になります。
罰金は最高で全従業員の給与額の１％相当ですが、このポイント制の基準には抜け道があり、ポイント数だけ合わせていればいいという批判もあります。
つまり、男性だけ一人当たり100ユーロ（約18,200円）昇給させ、女性は10ユーロ（約1,820円）しか上げなかった場合でも、ほかの評価ポイントが高ければ、罰金の対象にはなりません。
さらに、フランスの企業の半数以上を占める中小企業はこのポイント制の対象にすらなっておらず、男女差別や年収格差は一向に縮まらないのが現状です。
執筆：マダム・カトウ
