2025年8月26日(火)、来週の新学期を迎えたフランスで「9月10日に国中を麻痺させよう」(”Bloquons tout” )というスローガンの投稿が2ヵ月ほど前からSNS上で拡散しています。7月に発表された政府の大幅な削減を盛り込んだ来年度予算案に反対し、徐々に市民反対運動と化したこの運動、一部の左派政党が支持を表明しています。これに対し、バイル首相は、国民議会での野党による政府不信任案提出を想定し、8日に自らの信任を問う投票を行うと発表、フランス政府の新学期は早くも荒れ模様です。
9月に国民の不満が噴出?続々とスト表明-不人気の「祝日削減」が引き金
フランスは膨大な財政赤字で、来年度予算で440憶ユーロ(約7兆5,623億円/1ユーロ=約172円)の大幅な削減を余儀なくされています。削減案の一部に失業保険の期間短縮、医療保険では保険でカバーできる薬の数や金額減、はたまた祝日の2日減で労働稼働日を増やすなど、国民に不人気な内容が多く盛り込まれています。
9月10日の「ゼネスト」の呼びかけに勢いを得た様々な業界がストを表明しており、これまで募っていた不満が一気に噴出する可能性が高まっています。
9月2日:エネルギー業界のスト
フランス炭鉱及びエネルギー業連盟は、9月2日からストを行うと表明しています。
「今回のストは抵抗するだけでなく、成果を勝ち取る闘いだ」と同連盟ホームページで発表しています。要求は、給与体系をより公平にする見直し、人員の増強、さらには海外県とフランス本土の価格差を補うための補助金の設定なども含まれています。
9月5日:タクシー業界のスト、「空車の帰りは払わない」医療搬送新料金案に激怒
財政赤字削減の一環として発表された医療搬送費用の新しい料金設定に、タクシー業界は猛反対しています。。
フランスタクシー連盟の代表ドミニク・ビュイッソン(Dominique Buisson)氏は、ストの表明に際し「(ストで)国をストップさせることで、タクシー業界蔑視をストップさせる」と発言しています。
フランス社会保険局はこれにより2年間で300万ユーロ(約514憶円)の削減を見込んでいます。タクシー業界が問題視する点は、これまで地方により異なっていた料金の全国一律化です。
地方、特に過疎地ではパリなどの大都市と異なり、搬送後は空車で帰ることになりますが、新しい料金設定では帰りの分が支払われません。
政府はさらに、搬送の際の位置情報(GPS)の導入により不正を制限すること、一回の搬送に複数の患者を乗せるよう促すことを目指しています。
タクシー業界、空港や駅、シャンゼリゼ大通りをブロックか?
フランスタクシー組合の書記長ラシッド・ブジェマ(Rachid Boudjema)氏は、「タクシー業界がウーバーなど(配車サービス車両)の不当な競合により苦境にさらされている」ことを政府にわからせるため、9月5日にはパリのシャンゼリゼ大通り(l’avenue des Champs-Elysées)に集合すると表明しています。
さらには空港や駅、地方では国境への道路の一部をタクシーで埋め尽くしてブロックする、といったデモを計画しています。
9月10日:黄色いジャケット運動の再来?「ゼネスト」呼びかけも内容は「不明」
今回、9月10日に呼びかけられている新たな市民抗議運動は、2018年にマクロン政権が導入しようとした「燃料税」がきっかけで起こった市民抗議運動「黄色いベスト」(”gilets jaunes”)を彷彿させます。
今回は、バイル政府の財政赤字削減案の中でも最も不人気な「祝日の2日削減」が引き金を引いた模様です。
SNSで複数の呼びかけがあり、具体的にいつどこでといった内容が現在のところ不明ですが、2018年は全国各地で様々な人々が集まり、それぞれ政府への怒りをぶちまけていました。
極左をはじめ、社会党やエコロジストなど左派は支持を表明していますが、デモや政策に反対する抗議運動を主導してきた労働組合は、現在のところ要求内容を含め、慎重に検討していると発表しています。
9月10日:フランス国鉄、組合の一部がスト呼びかけ
SNCFの組合の一部、スュッド・ライユ(Sud Rai)は、失業保険の受給期間の短縮など条件の改悪を理由に、スト参加の呼びかけを開始しています。
「首相は失業者や年金受給者を攻撃している。労働者の権利を侵害し、ひいては公共サービスを悪化させようとしている」とジュリアン・トロカズ(Julien Troccaz)書記長は怒りを表明、10日以降のスト延長の可能性も示唆しています。
9月18日:薬局の一部がストで閉店、26日から毎週土曜閉店も
政府は2025年の医療保険の17憶ユーロ(約2,920憶円)の削減を発表、その中には医薬品代500万ユ―ロ(約859憶円)の削減が盛り込まれています。
政府はすでに、薬品会社がジェネリック薬品薬局へ販売する際に行う値引き額の上限を、9月1日から現行の40%から30%に引き下げる政令を発令しており、薬局業界は収益が今まで以上に圧迫される、と痛烈に批判しています。
9月8日、国民議会で信任投票、「背水の陣」のバイル首相
歳出削減案への各方面からの反対、野党からの「内閣不信任案」が提出されることを想定し、バイル首相は9月8日で国民議会で議会の信任を得るために「政府の責任を問う」形で信任投票を実施します。
これは憲法第49条第1項に基づき、政府が議会の支持を得られなければ、首相は辞任しなければなりません。首相は自らの首をかけるという、重要な政治局面となります。
来週以降さらに具体化すると思われる一連のストやデモ、今後のニュースや発表に注意が必要です。
執筆:マダム・カトウ