フランス なぜ猛反対?「バイユーのタペストリー」大英博物館貸し出し問題

2025.08.22

2025年8月22日(金)、11世紀の刺繍画でユネスコの世界の記憶遺産に指定される「バイユーのタペストリー」(tapisserie de Bayeux)の大英博物館への貸し出しにマクロン大統領が「ゴーサイン」を出したとの発表に、猛反対の署名運動がフランス国内で広まり、現在45,000の署名が集まっています。

 

1000年前の布に長旅は無理

タペスリーの貸し出しに反対する署名運動を始めた、美術専門サイト「ラ・トリビューン」(La Tribune de l’Art)紙の編集長ディディエ・リュクネール(Didier Rykner)氏は、貸出への反対理由として、製作からほぼ1000年近くたったこの作品は「非常に壊れやすい」ことを上げています。

同氏によると、文化財修復専門家やタペスリーの専門家も、ロンドンまでの長距離の移動の際に起こる振動や作品に触れるなどの行為により、このただでさえ脆弱な布が破れたり、一部が崩れおちたりといった「作品の多大なる劣化や破損が危惧される」との見解を示しています。

こういったことから、リュクネール氏は署名活動によりフランス大統領に対し、貸し出しは「この唯一無二の遺産への犯罪に近い」とし、撤回を求めています。

 

ノルマンディー公によるイングランド征服の物語の刺繍画

ノルマンディー地方(Normandie)の小さな町バイユーの大聖堂に長く保管されていたバイユーのタペストリーは、麻布にほどこされた刺繍画です。

幅わずか50センチ、全長約68メートルに及ぶこの刺繍画には、1066年のノルマンディー公ギヨーム(Guillaume, duc de Normandie)、のちのウイリアム征服王(Guillaume le Conquérant:英William the Conqueror)がイングランド征服をした物語が刺繍画で記録されています。

刺繍には10の自然色に染めた毛糸が使われており、製作年は1066年から1083年の間とされています。もともと幅は70センチ、長さは70メートルあったとされ、イギリス、ヘイスティングズの闘いまで記録されています。

物語は58場面が現存しており、最後の2場面がありませんが、歴史研究家はこの欠落部分にはウイリアム征服王の戴冠式が描かれていたと推定しています。

現在、バイユーのタペストリー美術館に保管、展示されています。館内証明は薄暗く、光による破損を避けるため撮影禁止になっています。

この美術館は、貸出とは関係なく、9月1日より2027年9月30日まで改装工事のため閉館します。

 

重要な文化財の仏英外交への利用?

バイユーが位置するカルバドス県(Calvados)の美術館担当官、セシル・ビネ(Cécile Binet)氏も、今年2月に「タペストリーの長距離の移動は破損の危険性が高いため無理がある」と発言していました。しかしながらその数週間後、移動に耐えうるかどうかの調査結果などは一切公表されないまま「貸し出しが決定した」と発表されています。

これに関してリュクネール氏は、多くの専門家が破損の危険性を認める重要な文化財を無理やり貸し出す行為は「単なる外交の道具」に利用されていると強く批判しています。

2018年に大統領が「貸し出し」認め

バイユーのタペスリーのイギリスへの貸し出しの話は、2018年に遡ります。第35回、仏英サミットの際に、ブレグジット後も続く両国の友好関係を象徴するものとして、マクロン大統領が貸し出しを発表しています。

今年、7月8日、大統領不在の中、大統領官邸報道官により貸し出しの具体化が発表されました。

大英博物館へ来年9月から

ロンドンの大英博物館での展示は来年9月~2027年6月末に予定されています。

タペスリーの貸し出しの代わりに、イギリスからはサットン・フーの考古遺跡から出土した中世初期の調度品が貸し出されます。

筆者もかれこれ20年前に閲覧しました。この素晴らしい刺繍画、一見1000年もたっているようには見えませんが、よく見ると布が風化して損失した部分も多く、この作品を後世まで残すのは並大抵のことではないと思いました。

バイユー・タペスリー美術館サイト

執筆:マダム・カトウ

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