フランス ボルドー赤ワインがピンチ、生き残りかけた政府の対策とは

2024.09.20

フランスワイン、ブドウ畑、生産者2024年9月20日(金)、フランス内外でワイン消費量減が続くなか、フランス政府はボルドーワインで知られるヌーヴェル=アキテーヌ地方(Nouvelle-Aquitaine)を中心に、ブドウの木を撤去するための補助金支給計画をEUに提出しました。承認されれば、3万から80万ヘクターのブドウ畑がなくなります。

 

フランスの食卓からワインが消えた?消費量、60年間で70%減

1960年代、フランス国民一人当たりのワイン消費量は120リットルでした。

これが現在40リットルにまで減っています。そしてこの現象は近年加速の一途をたどり、フランスの政府機関、アグリメール(Agrimer)によると、特に赤ワインの販売量は過去三年間で15%も落ち込んでいます。

若者はカクテルやビール、嗜好や食習慣に変化

今後の見通しはどうかというと、フランスの若者たちはカクテルやビールを好み、ワインを飲む場合も白やロゼ、赤なら「軽いもの」を好む傾向が顕著になっています。実際、フランスのビールの消費量は年々増えています。

20年前、フランスのちょっとしたレストランではビールは食前酒、食事中はワインに替え「魚料理なら白、肉料理なら赤」と言われていましたが、今では食事中もビールを飲むのはごく普通のことになっています。

 

輸出不振、中国は国産やスペイン産へシフト、米仏経済外交でとばっちり

2023年のフランスワインの輸出は、前年比10%減、コロナ禍以来不振が続いています。

大口の輸出先中国は、長年かけて国産ワインの質を向上した結果、国産の販売量をのばし、輸入はより安価なスペインやイタリア産にシフトしています。

フランスワイン、米ボーイングの報復で追加課税25%

フランスといえばワインとチーズですが、国の象徴ともいえるこの2つの名産は、経済外交問題が浮上するたびに報復のターゲットにされています。

世界2大メーカーで独占の航空機市場、アメリカ政府の補助金を受ける米ボーイング社とEUの補助金を受ける仏独共同のエアバス社は、補助金の正当性めぐる争いで米とEUが対立、輸入に課税額を上げるという報復措置を繰り返していました。

2019年、「アメリカ第一主義」のトランプ大統領は、自らの政治アピールも兼ねてEUからの輸入品のうち、ワインやコニャックに追加25%の課税を導入しました。

世界貿易機関(WTO)にも承認されたこのトランプ税は、2021年、民主党のバイデン大統領に代わってからも据え置かれ、少なくともあと1年半は継続され、ワインやコニャックなどの輸出に大打撃を与えています。

 

ボルドー赤ワイン、定番の「フルボディ」があだに

ボルドーワインといえば赤、その代表的品種はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーなどです。「ボルドーワイン」では、これらの品種を混ぜることが認められています。

ピノ・ノワールという単品種だけで作られ、生産量が少なく、価格も高いブルゴーニュワインと比べ、ボルドーワインは「シャトー・マルゴー」(Château Margaux)など世界的に有名な高級ワインもある一方、テーブルワインと呼ばれる安価なワインまで幅広く、フランス最大のワイン生産量を誇っています。

ボルドーの赤は「豊かな渋みと重厚な味わい」で肉料理にぴったり、特に秋ごろから冬にかけて飲みたくなるワインですが、温暖化、ベジタリアンブームや価格高騰による肉消費減の影響もあってか、特に大きな打撃を受けています。

 

消費減による過剰生産、ワイン生産者に心いためる「最終手段」

需要が年々減るワイン、過剰生産で価格下落など、業界全体への悪影響を危惧したフランス政府は、ブドウの木を根から取り除く抜根費用の補助金1億2000万ユーロ(約193憶円/1ユーロ=約157円)の予算を組み、その計画をEUに提出しました。

承認されれば、再度ブドウの木を植えないことを条件に、1ヘクタール当たり4,000ユーロ(約628,000円)の撤去費用が希望する生産者に支払われます。

EUからの補助金対象外のこの費用、フランス政府が全額負担するわけですが、EUの農業補助制度などを扱う共通農業政策(PAC :politique agricole commune)のルール上、EUの承認を得る必要があります。

ちなみに撤去補助金は、すでに国内でローヌ渓谷地域や南西フランスなどの赤ワインの産地を中心に、地方レベルで存在しています。

減産より時代にあわせたワイン造りへ

ワイン生産者組合は、今回の補助金に対するEUからの承認を待つともに、今後は、ワインの減産を奨励するのではなく、もっと「軽い赤ワイン」といった消費者の嗜好の変化にあわせた品種への植え替えへの補助金にシフトしたいと希望しています。

執筆:マダム・カトウ

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