2023年11月14日(火)、パリのカフェで日常的に見かけるテレワーカー、カフェ一杯で何時間もノートパソコンに向かう彼らへの「対策」をとる店が増えています。確かに「長居するだけの儲からない客」のレッテルを貼られたテレワーカーですが、カフェのオーナーたちの悩みは経済的なものだけではないようです。
エスプレッソ一杯で4時間
クリストフ(Christophe)さんは毎朝パソコンを片手に家を出て、午前いっぱい近所のカフェで過ごします。
カフェのメニューで最も料金が安い1.3EUR(約208円/1ユーロ=160円)のエスプレッソを注文、隣の席でワイワイ喋っている数人の若い客を時々鋭い目つきで睨みつける以外は、静かにキーボードを叩き続けます。
でも、カフェはそもそもおしゃべりする場所ですよね?
ところが、コロナ禍前の2019年に会社員の4%しかいなかったテレワーカーは、今では30%を占め、クリストフさんのようにドリンク1杯の注文で3、4時間カフェに居座る会社員の数は爆発的に増えています。
「シーン…」としたカフェなんて、カフェじゃない?!
ついに「パソコンの利用を禁止」したカフェ・ドーズ・パリ(Café Dose Paris)のオーナーの一人、ジャン=バティスト(Jean-Baptiste)は、テレワークの客の数が「多すぎる」事が禁止にいたった最大の理由だと言います。
無論、この店では「ちょっと過激」とも思われる決断をする前に、いろいろな試みを行っています。
まず、WiFiに利用時間の制限をつけ、次に店内にテレワーク専用コーナーを設けたり、テレワーカーを受け入れる時間帯を設定したりと試行錯誤を繰り返しましたが、どれも満足のいく結果は得られなかったようです。
「ルール」に疲れて、パソコン全面禁止へ
ルールをつくったものの、今度は曖昧な部分が露呈し、その結果お客さんともめたりすることが増えてしまいました。
ジャン=バティストさんは「そもそもカフェは商売」だから、11時に来た客は両手広げて「ウエルカム」、でも18時に来ると「お断り」などとお客を区別するのはおかしいと、結局店内でのパソコンの利用自体を「全面的に禁止」したほうがシンプルだという結論にいたりました。
そしてそのように入り口に張り紙をしています。
カフェは1日の中で「最も良いひととき」を提供する場
当然、テレワークができず「残念」と去っていくお客さんもいたようですが、店内を見渡すと午前中なのにお客さんがおしゃべりしたり、コーヒーを何杯も飲んだり、タルティーヌの匂いやブランチの美味しい料理が運ばれたりする中で時々ゲラゲラ笑う声が聞こえたりと、カフェ本来のいきいきとした雰囲気が漂っています。
オーナーは、「幽霊みたいに何も言わずにじっと座って、カタカタとマウスやキーボードを叩く音しかしない」、「1日の中で最も居心地のいい時間を過ごしてもらうのが我々カフェのミッション」と難しい決断をしたことに後悔していません。
カフェは職場じゃない!
カフェ・カバンヌ(Kabane)では、コロナ禍直後に「テレワークお断り」にしました。なぜならカフェの一般の利用客も、テレワーカーも、店も、みんなが不幸になるからです。
テレワーカーは静かに仕事がしたい、でもカフェの客は普通にワイワイ喋っている、一般客は「うるさいだろうからあまり大きな声で喋れない」と居心地の悪さを感じます。
そうすると、次第にテレワーカーの周りのテーブルには客が座らなくなってしまいました。テレワーカーは数時間の滞在で注文はコーヒー一杯、ほとんど消費しないから儲からない、という悪循環に陥ります。
テレワーク禁止、お金より「カフェらしさ」を守るため
「カフェにいるのにおしゃべりできないなんて本末転倒」と言うオーナーは、この決断について「経済的な理由ではない」と断言します。
なぜなら、午後になるとコーヒー一杯で何時間も座っておしゃべりするだけの客もいるからです。
オーナーはこういったお客にはなんの問題も感じませんが、「誰も仕事している人を見たくない」し、そういう人のそばでは声を潜めたり、子供が騒いでいると気まずくなったり、「コミュニケーションにストレスを感じる」と言います。
午後は歓迎、朝と昼の「繁忙時はお断り」はありか?
パリのカフェで徐々に肩身が狭くなってきたテレワーカーをまだ受け入れている店もあります。
オモニュメリキュス(homo numericus)のオーナーロマン(Romain)さんは、「テレワーカーはウエルカムです。ただし、「こちらのルールに了解してくれれば」と条件付きで受け入れています。
つまり、お昼と週末はパソコンなし、数時間いるならエスプレッソ一杯以上の注文をすることです。
ロマンさんは、カフェという場所で人々を「歓迎することに条件をつけるのは簡単ではありません」が、「ルールを守らせる」というより、人々の常識に頼る部分が多いと言います。
会社でもコワーキングでもないカフェ、テレワーカーとのギブ&テイクが成立する時
ロマンさんによると、最近コワーキングスペースWe Workが倒産したのは、テレワーカーは「自宅でもオープンスペースでも働きたくない」「会社を彷彿しない場所で働くことを求めている」からだという持論があります。
店の常連テレワーカーのジュリー(Julie)さんは、「大声で喋ったり笑ったりしないからといっても私たちは普通の客と同じ、ちゃんとそれなりに消費してるわ」とコメントしました。
ロマンさんは「彼ら(テレワーカー)がいないと午後店は空っぽ。カフェは単に朝8時から10時とランチだけの場所にしたくない」と、テレワーカーとの共存をうまく実現しています。
執筆:マダム・カトウ