2023年5月26日(金)、フランスで排出されるCO2削減の一環として、フランス国内線の定期航空便のうち、高速列車TGVで2時間半以内で代替えがきく路線の運行が禁止される法律が発令されました。しかしながら、一部の路線には執行猶予が与えられるなど、その効果のほどは疑問だという意見がメディアを賑わせています。
「温室効果ガス削減へ一歩」と交通相、現状はフライト1便も減らず
フランスのCO2削減の一環として2年前に議決された超短距離フライト禁止令は、23日にようやく発令されました。
これを受けボーヌ交通相(Clément Beaune)は「(フランスにおける)温暖化ガス削減政策の重要な第一歩を踏み出した」と自ら賞賛の意を表明しました。
しかしながら、実際はこの発令で運行停止になる便は、少なくとも直近では1便もありません。
コロナ禍ですでに運行停止
確かにパリオルリー空港(Paris-Orly)発リヨン(Lyon)行き、ナント(Nantes)および レンヌ(Rennes)行きの3路線は禁止の対象になっていますが、実際はコロナ禍による利用者大幅減により、エールフランス航空(Air France)はこれらの路線の運行を停止したまま再開していません。
しかもこの3路線は同社の独占だったことから、元々他の航空会社の便も存在していませんでした。
ド・ゴール空港発着便には「免罪符」?
今回の法律で削減される条件として、フライトの行き先が「高速列車TGVで2時間半以内で行ける路線」であること、と明記されています。そのためパリオルリー空港だけでなく、パリシャルル・ド・ゴール空港(Paris-Charles-de-Gaulle)発着便も例外ではありません。
パリド・ゴール発で削減対象になるのは、リヨン、ナント、レンヌに加えボルドー(Bordeaux)、さらに地方空港間、リヨン発マルセイユ(Marseille)行きですが、フランス政府は海外から地方へのアクセスが不便になることを危惧し、ド・ゴール空港発着便に関しては「長距離国際線の乗り継ぎ便として利用される」ことを条件に、削減対象から外すことを検討していました。
これに関しては、欧州委員会から「エールフランス航空を優遇する措置」として「待った」がかかりました。
エールフランス航空以外の航空会社、イージージェット航空、ヴォルテア航空、トランサヴィア航空などは、国際線の長距離路線を持っておらず、この措置は欧州の独占禁止法に触れるからです。
削減対象の「例外」作りに、あの手この手
結局、政府はパリから目的地へのTGVの所要時間ではなく、「空港駅から目的地へのTGVでの所要時間が2時間半以内の路線」に条件を変更、こうすることでパリ市内のモンパルナス駅から2時間ちょっとで行けるボルドー行きは「対象外」になりました。
パリド・ゴール空港駅からの時間を計ってもTGVで2時間半以内のレンヌ行き(2時間半)、リヨン行き(2時間)、1時間40分のマルセイユ空港発リヨン空港駅(Lyon Saint-Exupéry)行きに関しては対象外にすることができません。
しかしながら、法令には路線廃止条件の1つとして「代替として利用できる列車は直行、定期便が1日数本運行していること」が記載されています。
現状、早朝や深夜の便が運行していないこれらの路線は、鉄道による代替えが「不十分」とされ、やはり路線削減の対象外となっています。
CO2削減量はわずか、法令化は「意欲」のシンボル
フランス民間航空管理局(Direction générale de l’aviation civile :DGAC)は、例外があるにしても、今回の法令により年間のCO2排出量を55.000 トン削減できると発表しています。
コロナ禍前の2019年にフランスの航空業界が排出したCO2量、2370万トンからの削減という意味では、わずか0.3%の削減しか実現できない新法の効果はほぼ無いに等しいと言えます。
とはいえ、今後フランス国鉄の運行状況や路線拡大により、さらなるフライトの削減が進む可能性がないとはいえません。
この法令は欧州委員会の規定により3年間という期限付きで、3年後に再度削減状況などのデータが検証されることになっています。
いずれにしても、航空便により排出されるCO2の量を削減するというフランス政府の強い意志の「シンボルとして大きな意味がある」と交通相はコメントしています。
執筆:マダム・カトウ