12月2日(金)、SNCFフランス国鉄の「コントラバスの持ち込み禁止」により、プロの楽団員など演奏家らが罰金や乗車拒否などを被るケースが多発し、車での移動を余儀なくされるなど演奏活動に支障をきたしています。そのため現在演奏家たちによる署名運動が行われています。
コントラバス「持ち込み拒否」で列車を降ろされた、パリ管楽団の演奏家
今年の1月28日、パリ管弦楽団でコントラバスを演奏するスタニスラス・クチンスキー(Stanislas Kuchinski)さんは、パリ13 時42分発、ラ・ロッシェル(La Rochelle)16時21分着の列車8361号の1等車に、同じアンサンブルのメンバー7人と乗り込みました。
メンバーは全員、 頻繁に列車を利用する顧客が持つメンバーシップカード「グラン・ヴォワイヤジャー」(Grand Voyageur)を持っています。
出発14分前、楽団員たち以外には乗客もまばらな車内に車掌が現れます。
車掌はクチンスキー氏の横にあるコントラバスを見つけると、同氏に「車両から降りるように」と言います。
ガラガラの車内を見渡したクチンスキー氏はそのまま乗車させてもらえるよう車掌に訴えます。
さらに車内にいる他の乗客数人もクチンスキー氏の側について車掌の説得に加わりますが、車掌はガンとして譲りません。
その晩ラ・クルシーヴ(La Coursive)ラ・ロッシェル国立劇場でのコンサートに間に合うため、同氏は150ユーロ(約21,300円/1ユーロ=約142.18円)の罰金を払うことすら提案しますが、車掌は受け入れるどころか「降車拒否」を理由に今度は警官を呼びます。
無賃乗車ですらない客を下車させるために呼ばれた警察官も気まずい様子です。
これまでクチンスキー氏が乗った列車では、大抵の車掌が理解を示し、中には大きな楽器を抱える演奏家に同情的ですらありましたが、今回の車掌だけは車内規則を貫いています。
結局、下車する羽目になった同氏は、家に戻り自家用車を飛ばし、5時間半かけてコンサート会場に向かいました。44ユーロ(約62,00円)の高速代を払い、列車の7倍ものCO2を排出しながら…。
金額まちまちの罰金、誓約書…著名ジャズ演奏家シュヴィヨン氏の場合
アヴァンギャルドジャズの即興演奏家で知られるコントラバシスト、ブルーノ・シュヴィヨン(Bruno Chevillon)氏は、長いキャリアの間、何度となくこの問題に直面しています。
先月6日、ストラスブール(Strasbourg)で同じくアヴァンギャルドジャズのギタリスト、マルク・ドゥクレ(Marc Ducret) 氏の作品「Lady M」のコンサートを終えたばかりのシュヴィヨン氏は、帰りの列車でこの罰金を払わされています。
同氏は過去数カ月で3回の罰金、そのうち2回は50ユーロ(約7100円)、1回は150ユーロを支払っています。
また、何回かは「二度としません」と誓約させられたり、時には情状酌量のうえお咎めなしなど、車掌の対応や罰金額はまちまちのようです。
サーフボード、自転車は持ち込み可、チェロは「許容」
フランス国鉄の規則によると、キックボード、電動自転車、サーフボード、スキー、ベビーカー、車椅子、釣竿などは持ち込みを許可されています。
それ以外の「特別手荷物」と呼ばれる手荷物のルールは「高さが2メートルを超えない事」となっているだけです。
最近チェロがようやく「許容」されていますが、コントラバスは認められていません。
署名運動に45,000人
そのため、現在コントラバスの持ち込み許可を嘆願する署名運動が行われており、すでに45,000人の署名が集まっています。
署名運動の発信者によると、コントラバスはベビーカーよりスペースを取らないにもかかわらず持ち込みが禁止されているため、演奏家たちは150ユーロの罰金覚悟でコントラバスを列車内に持ち込み続けています。
交通省、文化省の協議虚しく、ESGはどこへ?
この件に関して7人の上院議員が心を砕き、交通省内の3つの委員会が文化省の2つの委員会と会合を行いましたが、SNCFのルール改正になんの影響力もなかったようです。
規則緩和は環境への配慮にもつながるはずですが、同社は今のところ変更する気はなさそうです。
「緊急性を要する温暖化対策に社を挙げて取り組む」という同社社長、ジャン=ピエール・ファランドゥ(Jean-Pierre Farandou)氏のスローガンが虚しく聞こえます。
執筆:マダム・カトウ