皆さんはフランスの車にどのようなイメージをお持ちでしょうか? ドイツ車ほど高級ではなく、イタリア車ほどスポーティではなく、日本車ほど品質は高くないものの、どこかおしゃれ…といった感じでしょうか。
毎年6月に入るとフランスでは夏のバカンスに関する会話で盛り上がります。そんなバカンスに必須のアイテムでもある車。今回のコラムでは、フランスの車事情について書いてみたいと思います。
フランス車ならではの特徴とは
フランス車におしゃれなイメージがあるとは言っても、フランス人にとってはただの国産車です。日本でもよく見かけるルノーやプジョー、シトロエンなどは、日本の軽自動車のようにおしゃれのかけらも感じられない実用の道具と化しています。
フランスでは、ルノーはお堅めの職業の人が、プジョーは若い人が、シトロエンは中高年が乗っている…というステレオタイプがあります。ただメーカーは違えどフランス車に共通しているのが、ソフトな乗り心地という点です。山道などでは不安になるほどふわふわしますが、フランスは大都会でも石畳がたくさん残っているお国柄。石畳を快適に走るために、ソフトな足は必要不可欠なのです。
フランスの道を知り尽くしたフランス人が作るフランス車は、フランスでこそ真価を発揮するのかもしれません。
キラキラ感のある高級車も
比較的手軽な価格で手が届きやすいのもフランス車の特徴です。不思議なことに、ファッションではいくつもの世界最高峰ブランドを持つこの国が、工業製品の自動車になると高級ブランドがありませんでした。
ですが高級車は利益率の高い、企業にとっては「おいしい」商品です。ブランディング力に長けたこの国のメーカーがその市場を狙わないわけがありません。プジョー・シトロエングループ(PSA)は、2015年にDSという高級車ブランドを立ち上げました。そこではフランス、というよりもむしろキラキラした「パリ」のイメージを前面に出し、他国の高級車とは違う独特の世界観を作り上げています。
その算段が当たったのかDSは瞬く間に大統領公用車に採用され、最近では街なかでもよく見かけるようになりました。フランスのファッションブランドにも通じるそのキラキラ感は、名だたる高級車が集う高級ホテルの車寄せなどでも独特の存在感を放っています。
車はぶつけるためにある!?
パリの縦列駐車(左)と、ぶつけたまま堂々と駐める車(右。2枚とも筆者撮影)
通りにびっしりと並んだ縦列駐車は、もはやパリの有名な景色のひとつと言えるのではないでしょうか。
フランスでは日本の車庫証明のような制度がないため、車庫がなくても車を所有できます。そのうえ路上駐車であれば月10〜20ユーロで停め放題のため、上の画像のような結果になるのです。
しかし、日本の教習所で泣きそうになりながら縦列駐車の練習をした私も、パリでするときはあまり緊張しません。というのも、前後の車に少し当てたところで誰も気にしないからです。
バンパーのことをフランス語で le pare-chocs といいます。読んで字のごとくショックを「pare-(防ぐ、よける)」するものなわけで、極端に言うとぶつけるためにあるのです。
車同士が少し触れただけで警察と保険会社に連絡をするよう教えられている日本人としては、逆にフランスの方が肩の力を抜いて運転ができるような気がします。
フランス人にとって車とは
日々の縦列駐車でぶつけられ、実用の道具としてこき使われているフランスの車。パリでは高級車でも傷だらけのことは珍しくありません。フランス人の友人に言わせると「動くものが傷付かない方が不思議」とのことで、「動けば良いじゃないか」という考え方が日本よりも多いように思います。
一方で、フランスでは一定の基準を満たす旧車を一種の工芸品のように扱い、税金面で優遇されたり通行規制を緩和されたりする制度もあります。環境規制の観点から、車は古くなるほど税金面で不利になる日本とは反対の考え方です。車を発明したヨーロッパでは、車は実用の道具であると同時に、思い入れのある大切な文化遺産としても見られているのかもしれません。
執筆 Takashi