フランス語で秋は la belle saison と表現されるように、四季の中でもとりわけ美しく感じます。日本でも秋が好きという方が多いのではないでしょうか。今回は、多くのフランス詩の中から美しい秋をうたった代表的な秋の詩を2編ご紹介します。
1.ポール・ヴェルレーヌの「秋の歌」
ポール・ヴェルレーヌとは?
ポール・ヴェルレーヌ ( Paul Verlaine )は19世期後半の象徴派のフランス詩人です。12、3歳の頃から詩を作り始め、20代前半の頃には将来を期待される詩人となっていました。しかし若き天才詩人アルチュール ・ランボーとの出会いによって人生が狂い始めます。
ランボーの虜になったヴェルレーヌは妻を捨て、共にイギリスやベルギーなどへ出奔。結局、諍いが原因でランボーの左手首を拳銃で撃ち投獄されることになりました。投獄中も詩を作り続けていましたが、出獄後もアルコールに溺れ入退院を繰り返し52歳で亡くなりました。
ヴェルレーヌは唯一の評論書である「呪われた詩人たち」(Les Poètes maudits )で、才ある同世代の詩人たちを紹介したことでも評価されています。
ヴェルレーヌの詩の特徴
ヴェルレーヌは詩の音楽性を重視しています。それまでの詩では8、10、12といった偶数音節を用いるのが主流だったのに対し、7音節等の奇数音節を多く採用しました。
「秋の歌」( Chanson d’automne )は、ヴェルレーヌの初期の代表作「サテュルニアン詩集 」( Poèmes saturniens )に収録されています。上田敏の「海潮音」でも聴けるのでご存知の方も多いのではないでしょうか。本来のタイトルは「秋の歌」ですが、上田敏は「落葉」と訳しています。名訳なのでぜひ聴いてみてください。
4/4/3の音節からなる詩ですが、1節目だけを見ても longs、violons や cœur、langueur が韻を踏んでいます。音楽性を重視したヴェルレーヌらしい詩です。上田敏は5/5/5の音節で訳し、音楽性を表現しています。原文を音読すると詩の美しさをより一層味わうことが出来るので、ぜひ声に出して読んでみてください。
2.シャルル・ボードレールの「秋の歌」
シャルル・ボードレールとは?
シャルル・ボードレール ( Charles Baudelaire ) はヴェルレーヌよりも少し前、19世期前半に生まれた象徴派詩人です。生前に出版した詩集は「悪の華」( Les fleurs du Mal ) のみですが、その耽美かつ退廃的な詩はヴェルレーヌ、ランボー、マラルメといったボードレール以後の詩人たちに多大な影響を与え「近代詩の父」と呼ばれています。
ボードレールは批評家としても優れた才能を持ち、ドラクロワ等の画家に関して数多くの美術批評を書いています。また、エドガー・アラン・ポーの作品を翻訳しフランスに紹介したのもボードレールです。
陰鬱と愛を表現
今回は「悪の華」( Les fleurs du Mal ) の中から「秋の歌」( Chant d’automne )をご紹介します。ヴェルレーヌの「秋の歌」は哀愁や物悲しさが漂いますが、こちらはこれから来る厳しい冬と人生の終わりである死の予感を重ね合わせた重く陰鬱な詩です。
ただ、この詩は二部構成で陰鬱なのは第一部のみで、第二部は愛の詩になっています。雰囲気の違いを味わってみてください。ここでは私の拙訳を載せておきます。
I
Bientôt nous plongerons dans les froides ténèbres ;
Adieu, vive clarté de nos étés trop courts !
J’entends déjà tomber avec des chocs funèbres
Le bois retentissant sur le pavé des cours.
Tout l’hiver va rentrer dans mon être : colère,
Haine, frissons, horreur, labeur dur et forcé,
Et, comme le soleil dans son enfer polaire,
Mon coeur ne sera plus qu’un bloc rouge et glacé.
J’écoute en frémissant chaque bûche qui tombe ;
L’échafaud qu’on bâtit n’a pas d’écho plus sourd.
Mon esprit est pareil à la tour qui succombe
Sous les coups du bélier infatigable et lourd.
Il me semble, bercé par ce choc monotone,
Qu’on cloue en grande hâte un cercueil quelque part.
Pour qui ? – C’était hier l’été ; voici l’automne !
Ce bruit mystérieux sonne comme un départ.
II
J’aime de vos longs yeux la lumière verdâtre,
Douce beauté, mais tout aujourd’hui m’est amer,
Et rien, ni votre amour, ni le boudoir, ni l’âtre,
Ne me vaut le soleil rayonnant sur la mer.
Et pourtant aimez-moi, tendre coeur ! soyez mère,
Même pour un ingrat, même pour un méchant ;
Amante ou soeur, soyez la douceur éphémère
D’un glorieux automne ou d’un soleil couchant.
Courte tâche ! La tombe attend ; elle est avide !
Ah ! laissez-moi, mon front posé sur vos genoux,
Goûter, en regrettant l’été blanc et torride,
De l’arrière-saison le rayon jaune et doux !
I
もうじき、冷たい闇に沈むだろう。
さらばだ、短すぎた鮮やかな夏の光よ!
もうすでに、中庭の敷石に木々の落ちる音が
陰鬱な襲撃とともに鳴り響いている。
冬の全てが私の中に戻るだろう。怒り、
憎しみ、震え、恐怖、逃げられぬ辛い仕事が。
そして、極北の地獄の太陽がごとく、
我が心は赤く凍えた塊にすぎなくなることだろう。
薪がひとつひとつ落ちるのを、震えながら聞いている。
建造中の死刑台もこれほど重い音は立てまい。
止むことなき重い槌に何度も打たれ、
我が精神は崩れ折る塔に似る。
この単調な衝撃に揺すらると、
何処かで性急に棺桶に釘が打たれているように思える。
誰のための?ー昨日は夏。今は秋!
この不思議な音は出発の合図のように鳴り響く。
II
お前の緑がかった切れ長の目が好きだ。
優しくも美しい人。だが今は全てが苦い。
そして、何も、お前の愛も、部屋も、暖炉も、
海に輝く太陽には値しない。
だが、愛してくれ、優しい心!母であってくれ。
不届きな者にも、意地の悪い者にさえ。
恋人か妹か、束の間の優しさであってくれ。
輝やかしい秋の、落日の。
束の間の仕事だ!墓が待ってる。墓は貪欲なのだ。
ああ!放っておいてくれ。額をあなたの膝に押し付けて、
味わうのだ。白く焼けつく夏を惜しみ、
晩秋の、黄色く優しい光を!
この詩には作曲家のガブリエル・フォーレが曲を付けていますので、曲・詩を同時に味わうのも一興です。
まとめ
19世期象徴派の詩人の作品を2つご紹介致しました。フランス詩は韻や音節のルールを守っているものが多いので、音読するとその美しさがより一層伝わります。ぜひ読書の秋にフランス詩を読んでみてはいかがでしょうか。
執筆 ちはる