8日(火)、スウェーデンの王立科学アカデミー(典:Kungliga Vetenskapsakademien/英:Royal Swedish Academy of Sciences)が、スイスのジュネーブ大学(Université de Genève)のミシェル・マイヨール(Michel Mayor)教授(77)とディディエ・ケロー(Didier Queloz)教授(53)、そしてアメリカのプリンストン大学(Princeton University)のジェームズ・ピーブルズ(James Peebles)教授(84)の3名に、ノーベル物理学賞(典:Nobelpriset i fysik/仏:Prix Nobel de physique)を授与すると発表しました。
※典=スウェーデン語、瑞典語
「世界の概念を永久に変えた」二つの発見が評価される
王立アカデミーは、「世界の概念を永久に変えた」として、宇宙の進化に関する理論を構築したピーブルズ教授と、太陽系外の惑星を初めて発見したマイヨール教授とケロー教授にノーベル物理学賞を授与すると発表しました。
宇宙論学者、ピーブルズ教授
世界を代表する理論宇宙論学者であるピーブルズ教授は、1970年以降、138億年前に起きたとされている宇宙の始まりの爆発的膨張である「ビッグバン」が起きた直後からの宇宙の膨張や宇宙の大規模構造などの研究で、宇宙の進化に関する理論を確立しました。
宇宙全体に存在し宇宙の膨張を加速していると考えられている暗黒物質、ダークマターの研究へも貢献していて、これまでにも数々の賞を受賞しています。
仏語圏スイス人天文学者、マイヨール教授、ケロー教授
スイス人の天文学者でジュネーブ大学で教鞭をとるマイヨール教授と、マイヨール教授の下で博士号を取得し、現在ジュネーブ大学とイギリスのケンブリッジ大学(University of Cambridge)で教鞭をとるケロー教授は、共にジュネーブ天文台(L’Observatoire de Genève)で、地球から50光年※1にある太陽に似た恒星「ペガスス座51番星」が、惑星によってふらついている状態を高分解能分光計によって発見し、その後観測データの分析によって、ペガスス座51番星に属する惑星が発見され「ペガスス座51番星b」と名付けられました。
このペガスス座51番星bは、世界で初めて発見された太陽系以外の惑星として、世界を驚かせました。
ペガスス座51番星bは、主星であるペガスス座51番星から0.05au※2という至近距離を、4.2日という猛烈なスピードで公転していて※3、表面温度は1,000℃に達するということです。
※1 光の速さ(1秒間に地球を7回半回るスピード)で50年かかる距離
※2 太陽と水星の間の距離の1/6 1au=149,597,870,700m(太陽と地球の間の平均距離)
※3 太陽系で最も太陽に近い距離を公転している水星の公転周期は88日
気になる賞金は
授賞式は、今年の12月10日にスウェーデンの首都ストックホルム(Stockholm)のコンサートホールで行われます。賞金は、900万スウェーデンクローナ(以下SEK/およそ9715万円、1SEK:およそ10.7円)で、半分の450万SEK(およそ4860万円)がピーブルズ教授に支払われ、マイヨール教授とケロー教授には、1/4である225万SEK(およそ2430万円)ずつ支払われます。
BREAKING NEWS:
The 2019 #NobelPrize in Physics has been awarded with one half to James Peebles “for theoretical discoveries in physical cosmology” and the other half jointly to Michel Mayor and Didier Queloz “for the discovery of an exoplanet orbiting a solar-type star.” pic.twitter.com/BwwMTwtRFv— The Nobel Prize (@NobelPrize) October 8, 2019
昨年はフランス人が受賞
昨年の2018年度には、フランス人科学者のジェラール・ムル(Gérard Mourou)氏を含む3名が、超短パルスレーザーの出力を飛躍的に高めるチャープパルス増幅法という手法を開発したことが評価され、ノーベル物理学賞を受賞しています。
これまでのフランス人受賞者数
これまでにフランス人でノーベル賞を受賞したのは59名で、2010年以降は、ほぼ2年一度のペースで受賞者が出ています。
2011年にはジュール・ホフマン(Jules Hoffmann)氏が医学生理学賞、2012年にはセルジュ・アロシュ(Serge Haroche)氏が物理学賞、2014年にはパトリック・モディアノ(Patrick Modiano)氏が文学賞、ジャン・ティロール(Jean Tirole)氏が経済学賞※、2016年にはジャン=ピエール・ソヴァージュ(Jean-Pierre Sauvage)氏が化学賞を、そして、昨年のジェラール・ムル氏が物理学賞を受賞しています。
※ノーベル経済学賞は正式にはノーベル賞ではなく、アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞(典:Sveriges riksbanks pris i ekonomisk vetenskap till Alfred Nobels minne)
日本人は残念ながら受賞ならず
ノーベル物理学賞に今年は、省電力半導体の基礎研究に尽力した大野英男東北大学学長や、レーザーを用いたがん治療の基礎をつくった田島俊樹カリフォルニア大学アーバイン校教授など5名の日本人が候補に挙がっていましたが、残念ながら受賞には至りませんでした。
今後の日程は、明日9日(水)に化学賞、10日(木)に文学賞、11日(金)に平和賞、そして来週14日(月)に経済学賞が発表されます。果たして誰が受賞するのでしょうか。
執筆:Daisuke