フランスの住宅は、地方によって見られる住宅様式が異なることをご存知ですか?
じつは景観を乱さないように行政が家や店舗の建て替えに関して厳しく取り締まっているのです。地震が少ないおかげで昔からの建物が多く残っていることも手伝って、現在でも、歴史的背景や風土を反映した伝統的な様式の住宅を多く見ることができます。
今回は、地方によって異なるフランスの家のスタイルについてご紹介します。
オスマン様式 Style Haussmanien
パリの均一な建物が並ぶ景観は、多くのオスマン様式の建物から形成されています。
19世紀のオスマン都市改造計画に基づいて建築された、石造りのファサード la façadeや美しく装飾されたバルコニー le balcon、大きな窓 la fenêtreが特徴的な建物です。最上階はかつて、使用人が暮らすための屋根裏部屋 le grenierだったため、天井が低い小さな部屋となっています。
当時から変わらない外観はとても美しいのですが、各部屋だけを改装して居住し続け、共用部分は改装されていないことも多々あります。そのため、しばしば水漏れが発生したり、エレベーターがないままの建物も多く、エレベーターがあっても、2人乗るのが精一杯なサイズだったりということがあります。歴史ある美しさと便利さはなかなか相容れない部分も多いのかもしれませんね。
プロヴァンス様式 Style Provençal
美しいラヴェンダー畑やローマ時代の遺跡など、人気の観光地が多いプロヴァンス地方。この地方では、赤い瓦の屋根le toit、鮮やかな色の雨戸 le volet、石の壁 le mur、オリーブやミモザなど地中海の温暖な気候に合った植物が生えた庭園 le jardinや中庭 la courが特徴的な家が多く見られます。
現在はクーラーを設置している家も多いですが、かつては夏の暑い昼間はカラフルな雨戸を閉めて、熱気を家の中に入れないようにして、過ごしていました。
ノルマンディー様式 Style Norman
牛、馬、羊などの畜産動物が多く、牧歌的な景色が広がるノルマンディー地方。有名なモンサンミッシェルがあるのもこの地方です。
この地方では、日本でもかつてはよく見かけた茅葺き屋根 la chaumièreやコロンバージュ le colombageと呼ばれる木組みの構造、木組みの間を漆喰 le plâtreで固めた家が多く見られます。牧草地の中にノルマンディー様式の典型的な家が建っている様子は、まるで絵本の世界のようです。
コロンバージュの色は素材の色である茶色が多いですが、淡い緑色や水色など好みの色に塗装されていることもあります。
ブルターニュ様式 Style Breton
ノルマンディー地方の隣に位置するブルターニュ地方ですが、ノルマンディー地方とは異なる様式の家が多く見られます。ブルターニュ地方は、海に囲まれ、雨がよく降り、潮を含んだ強風が吹くことも多いため、あまり木材は用いられず、頑丈な石作りの家が多いのが特色です。
アルザス様式 Style Alsacien
ドイツ国境に位置するアルザス地方は、歴史上、何度かドイツ領土になったこともあるため、ドイツ文化の影響を受けた様式の住宅が多く見られます。
この地方では、ノルマンディー地方と同様のコロンバージュと呼ばれる木組みの構造に青や赤などのカラフルな壁の家が多く見られます。
色とりどりの家が並んでいる様子はとてもフォトジェニックなのですが、これは家主 le propriétaireが好みの色を塗ったわけではありません。かつて、住人の職業が壁の色でわかるようになっていた時の名残で、赤は鍛冶職人、青は木工職人、黄色はパン・お菓子職人、緑は布・皮革縫製職人、クリーム色は建築関連の職業の人と決まっていたそうです。
またアルザス地方の家は、雨戸が採光用にハート型にくり抜かれていることが多く、バルコニーにたくさんの花が飾られている様子はとてもメルヘンチック。観光客は皆、その美しい街並みにカメラを向けています。
バスク様式 Style Basque
スペイン国境に位置するバスク地方では、白い壁と鮮やかな色のコロンバージュが特徴の住宅をよく見かけます。バスク地方は雨がよく降ることもあり、3方の壁はコロンバージュがない白い壁となっていて、前面のみコロンバージュが施されています。
現在コロンバージュの色は真紅色の他に紺色やグレー、緑色なども見かけますが、かつては牛の血液を防虫対策として木材に塗っていたため、伝統色は真紅色になります。
まとめ
フランスでは景観を守るため、スーパーマーケットやガソリンスタンド、レストランなどの建物も、その地域の住宅に合わせた外装になっていることがよくあります。伝統的な建築様式の建物がホテルとして利用されていることも多く、町や村全体がその地方らしい統一された雰囲気になっています。
フランスの地方を訪れた際は、ぜひ家のスタイルの違いにも注目してみてくださいね。
執筆者:YUBO