フランスで最も権威ある文学賞のひとつ ゴンクール賞・ルノドー賞の発表

2021.11.04

開いた本 文学

11月3日(水)、フランス語文学で最も権威ある文学賞のひとつ、ゴンクール賞(Prix Goncourt)が、セネガル出身のモハメド・ムガール・サール(Mohamed Mbougar Sarr)氏の“La Plus secrète mémoire des hommes”(『人間がもっとも明かさない記憶』)に贈られることが発表されました。

同日、ルノドー賞(Rrix Renaudot)の授賞式も行われ、ベルギー出身で日本への滞在歴もあるアメリー・ノートン(Amélie Nothomb)氏の”Premier sang”(『最初の血』)が受賞しました。

受賞作品の翻訳を待ちつつ、この機会にフランス語文学にチャレンジしてみるのはいかがでしょうか。

※本記事中の作品名などは、執筆者による仮訳であることをご了承ください。

 

ゴンクール賞

ゴンクール賞は、フランスの作家である、エドモン・ド・ゴンクール(Edmond de Goncourt, 1822-1896)と弟のジュール・ド・ゴンクール(Jules de Goncourt, 1830-1870)の財産を基に設立されました。

1903年の設立以来、マルセル・プルースト(1919年)、シモーヌ・ド・ボーヴォワール(1954年)などが受賞した、フランスで最も権威のある文学賞です。

3段階の選考

選考はアカデミー・ゴンクール(Académie Goncourt)が行い、毎年9月から10月末にかけて15作品→8作品→4作品と候補を絞っていきます。審査員は口頭で投票することとなっており、いずれかの作品が過半数の票を獲得するまで最大10回、投票を繰り返します。

選考対象となるのは、フランス語で書かれ、フランス語圏の出版社により本屋に流通している小説で、作家ひとりにつき一作品までが候補となります。候補作品は審査員に贈られるとともに、毎年9月第1週から各地の書店に並びます。

 

1年ぶり、対面での受賞作発表

受賞作は例年、パリ2区にあるレストラン・ドゥルーアン(Drouant)で発表されます。昨年はコロナ感染拡大の影響により、オンラインでの発表となったため、昨年の受賞者エルヴェ・ル・テリエ(Hervé Le Tellier)氏の授賞式を行ったあとに、今年度の受賞者が発表されました。

最終4作品からモハメド・ムガール・サール氏が受賞

2021年の最終選考には、以下の4作品が残りました。

  • Sorj Chalandon “Enfant de salaud” (第二次世界大戦中にナチスに属した父の語りから、語りてが過去をたどる)
  • Louis-Philippe Dalembert “Milwaukee Blues” (2020年5月に米ミネソタ州で起きたジョージ・フロイドさんの事件からインスピレーションを受けた、アフリカ系アメリカ人の物語)
  • Christine Angot “Voyage dans l’Est” (13歳より近親相姦を経験した主人公による語り)
  • Mohamed Mbougar Sarr “La Plus secrète mémoire des hommes”(1938年に出版された『人気のない迷宮』(”Le Labyrinthe de l’inhumain”)の跡をたどった小説)

見事、2021年のゴンクール賞を受賞したモハメド・ムガール・サール氏は、セネガル生まれの31歳で、受賞作は彼の4作目となります。受賞候補に挙がるまではほぼ無名で、ゴンクール賞の過去受賞作を多く出しているフランスやセネガルの出版社にも知られていなかったそうです。

“La Plus secrète mémoire des hommes” 植民地時代のセネガル・フランスを描く

受賞作『人間がもっとも明かさない記憶』は、サール氏のと同じセネガル出身の作家エリマン(T.C. Elimane)による、1938年の作品『人気のない迷宮』(”Le Labyrinthe de l’inhumain”)からインスピレーションを受けています。

物語は1930年代から現代までの、セネガル、フランス、アムステルダム、アルゼンチンという空間を行き来しながら展開し、個人日記や新聞の切り抜き、インタビューなど様々な文学ジャンルの語り口を取り入れた力作です。

受賞作には、1930年代のフランスにより植民地支配を受けいていたセネガルの首都ダカールが描かれている特徴的で、作品中には当時パリで活動していたアフリカの作家グループが描かれ、フランスの文壇に新たな風を吹き込みたいとの思いが表されています。

 

ルノドー賞は悲願のノートン氏に

例年、ゴンクール賞と同日に発表されるもう一つの文学賞が、ルノドー賞です。この文学賞は、17世紀に活躍したフランスの新聞記者テオフラスト・ルノドー(Théophraste Renaudot)氏にちなんで設立され、ゴンクール賞と同様、これまで多くの著名な作家に贈られてきました。

今年の受賞者であるアメリー・ノートン氏は、日本での滞在をもとにした『畏れ慄いて』(Stupeur et tremblements)などの作品で知られる、すでに大人気の作家です。1999年にはこの作品でアカデミー・フランセーズ賞を受賞しています。

これまで何度もゴンクール賞やルノドー賞などの権威ある文学賞にノミネートされており、今回は悲願の受賞となりました。

“Premier sang” コンゴ動乱を生きた父に捧ぐ

この受賞作はノートン氏の30作目で、2020年3月17日に他界した父パトリック・ノートン氏の、外交官としての人生を描いています。ノートン氏は1964年に外交官としてコンゴに渡り、政変の最中で九死に一生を得、妻との出会いを経験しました。

残念ながら3月17日はコロナウイルスの感染拡大による外出自粛の初日で、アメリ・ノートン氏は父の最期を看取ることも、すぐにお墓を訪れることもできなかったといいます。

この作品はすでに23万部を達成、追加で10万部の発売が見込まれるベストセラーとなっています。

エッセー賞には2作品

ルノドー賞にはエッセー部門もあり、今回は以下の2作品が受賞しました。

Gwenaëlle Aubry ”Saint Phalle” (Stock社、芸術家Nikiの自伝)
Sandra Vanbremeersch “La Dame couchée” (Seuil社、ある画家の未亡人Lucette Destouchesの自画像)

執筆あお

参照
Académie Goncourt 公式HP
2019年の受賞作品についてはこちら (2019年11月15日「仏で最も権威のある文学賞、ゴンクール賞の受賞者が決まる」)

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