パリ、高校生の抗議活動に端を発した大規模デモ(11月5日、筆者撮影)
2026年11月6日(金)、高校生による教育システム改善を要求する抗議活動が続くなか、焦点の一つとなっている大学進学選抜制度『パルクールシュップ』(Parcoursup)の改革が注目されています。学生側はこの制度の完全廃止を要求していますが、高等教育への進学を希望する学生数に、大学側の定員は大幅に足りていません。教育制度の問題の深さを地元メディアが報道しています。
バカロレア取って「希望の大学に進学」の夢、定員不足で妥協や断念
フランスの「バカロレア」(Baccalauréat)は、日本でいう高校卒業資格であるとともに、大学入試が基本的にないこの国では、大学入学資格を意味します。高校生らの不満は、この資格を取ったにもかかわらず、希望する大学や学部に進学できないことです。
フランスにおける大学及び高等教育への進学率は増え続け、大学や学部によっては大幅な定員オーバーを引き起こしています。そしてこれは今に始まったことではありません。以前は抽選で対応していましたが、非難が募ったことから2018年、マクロン政府は「パルクールシュップ」というプラットフォームを利用した「選抜制度」を初めて導入しました。
努力はむくわれない?「AIが選抜」と学生は敵対視
バカロレア試験の点数だけでなく、年間の学校での成績を加味、さらに課外活動や志望動機も記入するこのシステムを利用した選考の一部にAIが活用されていることから、学生らは自分たちの将来をAIが決めていると抗議しています。実際は、大学側も選考委員会で「人間が選考を行っている」と強調していますが、点数だけではない要素で判断されていることから、「選考基準が不透明」と学生や父兄から問題視されています。
つまり、学生にしてみれば「なにをすれば真に希望する大学や学部に入学できるのかわからない」ということなのです。
願書は10校まで出せるが、どうすれば「本命」に入れるのか?
パルクールシュップでは、大学なら10の願書(希望)が出せます。XX大学のXX学部という風に出すこともできますし、XX学部を希望して複数の大学に願書を出すこともできます。また、「本命」なのか「第二希望」なのかに分けることができます。大学以外にも専門学校、職業訓練校なども10校まで願書を出すことができます。
地元メディアが報道した政府のデータによると、今年のバカロレア取得者の約90%に当たる603,901人が、本命かどうかは別にして、願書を出した学校の少なくとも一校から何かしらの入学許可を受け取っています。一方、57,000人は、まったく受け取っていません。
大学の「在庫管理システム」になり下がった、『パルクールシュップ』
「パリ第一大学法学部には、定員745に対し70,500もの願書が届きます。抽選も選抜もしなければどうするのか?」
高等教育及び研究担当大臣、フィリップ・バティスト(Philippe Baptiste)は10月26日の国会で発言し、パルクールシュップの改定への議論を開始しました。
一方、社会党議員、ピエリック・クルボン(Pierrick Courbon)は、パルクールシュップは当初の目的だった「学生の進路選択を支援するのではなく、学生を選抜するためのツール」になっている。つまり単に大学の受け入れ不足枠を管理するための仕組み」だと批判しました。
大学、今年も資金不足でさらなる受け入れ人数減
入学志願者が増え続けるにもかかわらず、フランス全国高等教育連盟(Snesup-FSU)のデータによると、2025年から2026年にかけて大学の受け入れ人数は10,300人減っています。理由は資金不足によるものだと同連盟は説明しています。
フランスの高等教育、進学すれど卒業するのは「半分」だけ
フランスのバカロレア取得者の高等教育への進学率は高いものの、入学後5年以内に何かしらの「ディプロム」(修了証明書)や卒業資格を取得した人は53%にすぎません。
フランス高等教育及び研究省が公表するデータによると、2019年に大学に入学した学生の6分の1が学部を変更しています。ディプロムが取れなかった47%の学生は、中退、数回の学部変更を繰り返す、もしくは留年しています。
参考までに、2025年の日本の高等教育(大学、短大、専門学校含め)への進学率は、文部科学省サイトによると58.6%でした。うち中退の割合は約2%と発表されています。
進学枠増やしても、仕事なければ「制度の欺瞞」に不満や怒り、右派議員
極左不屈のフランス(LFI)党は、15万人分の定員増を主張していますが、保守派で共和党議員のローランス・ガルニエ(Laurence Garnier)氏は、「たとえ大学の定員数を25万人分増やしてディプロムを取得が増えたとしても、仕事につける見込みがなければ、失望が不満や怒りに代わるだけだ」と反論しています。
教育改革が「制度そのものに潜む偽善」になるとして、単に大学の受け入れ枠を増やすことに疑問を投げかけています。
同氏は、「100%の進学ではなく、100%の仕事の見込み」が必要だと述べています。
Z世代、AI普及で高まる「将来への不安」
高校生連盟代表のジョセフ・ランボー(Joseph Rambault)氏は、「なにも皆が医学部や法学部に進学できるようにしてほしいわけではない」としたうえで、学生が「希望する学部を選べるようにしてほしい」と訴えています。
さらに、AIにより失われる職業を見据えた教育改革として、「就職できる可能性の高い学部の定員を増やすこと」を要求しています。
政府は、パルクールシュップに代わるプラットフォームの審議会の開催を予定しています。メンバーには学生や教師の代表も含まれています。
出典:FranceInfo、フランス政府公式サイト、日本文部科学省サイト
執筆:マダム・カトウ












