2025年6月3日(火)、全仏オープンテニス(ローラン・ギャロス:Roland Gallos)は今週末で決勝戦を迎えます。この由緒正しいトーナメント中も、試合のプレッシャーからくるストレスをラケットにぶちまける選手が毎年見受けられます。この「ラケット破壊行為」に製造メーカーはどのような対策をとっているのでしょうか?
今年の全仏オープン、今のところラケット破壊は皆無
トーナメント開始1週間過ぎで、ラケット破壊は今のところ「ゼロ」ですが、
テニス世界ランキング一位の期間が歴代最高のノバク・ジョコビッチ選手は、全仏オープン直前にジュネーヴで行われた大会中、対戦相手に第二セットをブレイクされた際にラケットを地面にたたきつけました。
スイスの観客はブーイング、同選手は試合後「確かに模範的態度とは言えないし、観客にとっても愉快な光景ではない」と謝罪した上で、「多大なプレッシャーの中でプレーする最中に、こういったことは起こりうる」と釈明しています。
ラケット破壊「常習」でなければ「許容」、メーカー側
フランスのラケットメーカー、バボラ(Babolat)社、国際マーケティング部長のジャン=クリストフ・ヴェルボール(Jean-Christophe Verborg)氏は、「(ラケット破壊は)あってはならないことではあるが、まれに選手が癇癪を起して壊すのはわからないでもない」と理解を示したうえで「頻繁に起こらなければ」許容すると説明しています。
契約書に「ラケット破損防止」の項目なしも、コート上のマナーなどで牽制も
選手のスポンサー企業にとって、自社のラケットを試合中に地面にたたきつけて破損されるのは、ブランドのイメージダウンにつながります。
しかしながら、選手とのスポンサー契約に「アンチ・ブレイク(ラケット破損防止)」についての明確な条項を契約に盛り込んでいる企業はなさそうです。
ヨネックス(Yonex)社は「壊したラケットの本数に応じて、金銭的なペナルティを契約に加筆することはあり得る」とし、ダンロップ(Dunlop)社は契約書に「スポーツマンシップ及びコート上でのマナー」に関する項目が含まれています。
確かに「マナー」などの表現は契約上「曖昧」ではありますが、万が一常習的に態度の悪い選手がいた場合に、「法的手段に出ることが可能になる」とダンロップ社欧州選手担当のオリヴィエ・ルサンプル(Olivier Lesimple)氏は説明しています。
「ラケット破壊常習者」対策、選手は製作者に会い「反省」
昨年、ATP500の準決勝でアンドレイ・ルブレフ選手が、判定への不満から線審をロシア語で罵倒して失格になっています。
昨年の全仏オープン男子シングル優勝のカルロス・アルカラス選手は、同年別の大会中、初めてラケットをたたき壊しましたが、彼のエージェントがバボラ社に謝罪の電話を入れています。
こういった選手がコートで怒りをぶちまけるシーンに、メーカー側はハラハラしています。
バボラ社は、先日ファビオ・フォニーニ選手(伊)とフランスのブノア・ペール(Benoît Paire)選手の二人をリヨン(Lyon)の工場見学に招待しました。
ヴェルボール部長は、「ブノアはラケットを頻繁に壊していました。そこで、製作現場を見てもらおうと工場に招待しました」と述べています。同氏は、ペナルティよりも、教育の方が効果的だと考えたわけです。
実際に工場でスタッフに会い、修理や製作現場の苦労を理解したペール選手は、数々のラケットを壊したことを「謝罪」しています。
無料提供のラケット、本数限定
契約には無料提供する本数が記載されており、それ以上に選手が必要な場合はその分の金額が請求されます。しかし、実際その本数を越える選手はほぼいないようです。
「一度もラケットを破壊しなかった」、ナダル選手
今年のローラン・ギャロス開会式前に、現役引退のセレモニーが行われたラファエル・ナダル選手は、同大会で史上最多となる14回もの優勝を果たした功績だけでなく、「一度もラケットを破壊しなかった」ことでも有名です。
ラファの愛称で親しまれる同選手は「私の家ではラケットを壊すことは、自分の感情のコントロールができていない証拠だとして許されていなかった」と述べています。
ラファ、マナーでも影響力
バボラ社の部長は「ラファは素晴らしい人格の持主で、彼の受けた教育が他人や道具への敬意に表れていると」と述べています。
最近、ラケットの破壊行為が減っていることに関して同氏は「ラファはコート上の態度においても、若い世代に多大な影響を与えている」と締めくくっています。
昔は木製だったラケットですが、現在はチタン、アルミ、カーボン繊維が主流です。ラケットの素材が変わって壊しにくくなったことも一因なのでは、と思ったのは私だけでしょうか?
執筆:マダム・カトウ