2025年3月18日(火)、EU議会フランス人議員のラファエル・グリュックスマン(Raphaël Glucksmann)氏は16日、今のアメリカは自由の象徴である『自由の女神(statue de la Liberté)を保持する資格がない』とし、その返還を要求すべきだと発言しました。これに対しアメリカ側は「現在のフランスでドイツ語が話されていないのはアメリカのおかげだ」と強く反発しています。
「独裁者を選んだ」アメリカ批判がエスカレート
社会党系、左派プラス・ピュブリック(Place publique)党首でEU議会議員のグリュックスマン氏は、16日に行われた同党の党大会で1,500人の党員や支持者を前に演説しました。
その中で「独裁者による支配を選んだアメリカ人たち、研究の自由を主張する科学者たちを解雇したアメリカ人たちよ。フランスは自由の象徴である自由の女神を贈呈したが、あなたがたは自由を「蔑視」している。この像は我が国にあるべきだ」と発言しました。
トランプ政権、フランスは第二次大戦の「恩知らず」
「自由の女神返却要求」に、アメリカのリーヴィット政府報道官は強く反発し、「フランスの公用語がドイツ語ではなくフランス語のままでいられたのは、アメリカという偉大な国のおかげだ」と述べ、第二次世界大戦でナチスドイツからフランスを解放したアメリカの功績を強調しました。
また、この発言をしたグリュックスマン議員を「取るに足らない無名のフランス人政治家」と痛烈に非難しました。
アメリカからの痛烈な反撃に対し、グリュックスマン議員本人は「ユーモアのセンスもない」とかわしています。
フランスでの反応「むりじゃない?」「ばかげている」「妄想」
一方、フランスでは、グリュックスマン氏の発言を受け、1886年に完成しアメリカの独立100年を祝してフランスから送られた自由の女神像について、「返却要求はそもそも可能なのか?」という議論が巻き起こっています。
実は「返却」の話題はこれまでにも出ては消えを繰り返していますが、「(他人に)あげた物はあげた物、取り返すのは泥棒と同じ」(”donner, c’est donner, reprendre, c’est voler”)というフランス語の格言にもある通り、贈呈した女神像はアメリカのもの、というのが一般的な見解です。
ニューヨークのシンボルの返還は無理
歴史家たちは、贈呈を決め制作したのはフランスだが、資金はフランス人だけでなく、一部アメリカ人の寄付によるものであることを明らかにし、「返還は不可能」としています。
完成から10年後、オーギュスト・バートルディがギュスタフ・エッフェルの協力により作ったこの像はアメリカに到着しています。当時は移民を載せた船が到着するための目印になっていたという自由の女神像は、その後「ニューヨークの象徴」として世界中の人に親しまれ観光名所になっています。
パリ市内含めフランスに10以上ある『自由の女神像』
NYの象徴となった『自由の女神像』、実はフランス、特にパリ市内数カ所でそのレプリカを見ることができます。
1)最も有名なのは、エッフェル塔の近く、セーヌ川の中心にある中州『白鳥の島』(Île aux Cygnes)に立つ全長11.5メートルの自由の女神像です。ビル・アケム橋(pont Bir-Hakeim)からアクセスできます。
2)パリ工芸博物館(Musée des Arts et Métiers)
ひな形となった石膏像と銅像の2体があります。高さ2.86メートルほどのブロンズ像のほうは2010年から博物館の外に設置されています。
3)ルクサンブール公園内(Jardin du Luxembourg)
4)オルセー美術館(Musée d’Orsay)
高さ2.86メートルのレプリカを見ることができます。
5)パリ6区、ミッシェル・ドゥブレ広場(Place Michel Debré)
この公園内に建てられた、彫刻家セザール(César)によるケンタウルス(Centaure)像の胸のあたりをよく見ると、非常に小さな自由の女神像が突き出しています。
6)コルマール(Colmar)市内(アルザス地方)
制作者、バートルディの生誕地であるコルマールでは、同氏の没後100年を記念し2004年、全長12メートルのアメリカの『自由の女神像』のレプリカが設置されました。
7)バランタン市(Barentin)セーヌ=マリティーム県(Seine-Maritime)
ジャン=ポール・ベルモンド(Jean-Paul Belmondo)主演の仏映画『大頭脳』(”Le Cerveau”)で使用されたものを、当時の市長が何らかの形でてにいれ、市内のラウンドアバウトの中心に設置させました。
映画のクライマックス、ベルモンドがこの像の下から大量のドル札と共に出てくるシーンに使用されています。
執筆:マダム・カトウ