2025年1月24日(金)、今年3月2日に行われるアカデミー賞のノミネート作品が発表され、フランス映画『エミリア・ぺレス』(原題:”Emilia Pérez” )が最優秀映画賞を含む最多の13部門でノミネートされました。さらに『サブスタンス』(原題:”The Substance”)、作品の一部がフランスで制作されたアニメ『フロー』(原題:”Flow”)などもノミネートされるなど「フランス映画」の注目に地元メディアは盛り上がっています。
『エミリア・ぺレス』、非英語映画で最多の13部門ノミネート
ロサンゼルスの大規模火災で日程が延期された今年のアカデミー賞のノミネート発表は、異例のオンラインのみで行われ、ジャック・オディアール(Jacques Audiard)監督の『エミリア・ぺレス』が最優秀映画賞、最優秀監督賞、最優秀外国映画賞など主要部門、さらに最優秀音楽賞など、テクニカルな部門も含む13部門にノミネートされました。
これはフランス映画史上初の快挙ですが、アカデミー賞としても英語以外の言語による映画のノミネート数で過去最多となりました。
ゴールデングローブ賞も総なめ
昨年第30回カンヌ映画祭で2つの賞を受賞し、今月5日にすでにゴールデングローブ賞で最優秀国際映画賞を含む4つの賞を受賞したこの映画で、オディアール監督は「ミュージカルとソープオペラにスリラー」を大胆にブレンドしていると評価されています。
また多言語を話す出演キャストの起用で、『エミリア・ぺレス』は南米出身のアメリカ人などを含めた幅広いオーディエンスを獲得できるとみられています。
トランスジェンダー、麻薬密売がテーマ、奇しくもトランプ政権発足
メキシコの麻薬密売人のトランスジェンダー(心と出生時の性別が一致しない人)をテーマとするこの映画がアカデミー賞の最優秀映画賞を獲得する期待が募っています。
奇しくも20日に就任したアメリカのトランプ大統領は公約でトランスジェンダーの権利の縮小や、麻薬の流入を口実にメキシコからの不法移民の強制送還を掲げています。すでに後者は就任直後の大統領令により実行に移され始めました。
この映画のオスカー受賞が実現すれば、新大統領に向けたアカデミーからの辛辣なメッセージになるという意見もあります。
主役女優、カーラ=ソフィア・ガスコンのメッセージ
主役の密売人を演じるカーラ=ソフィア・ガスコン(Karla Sofía Gascón)は自らもトランスジェンダーを公表しています。
ゴールデングローブ賞で最優秀女優賞に輝いた同氏は、受賞後のスピーチでトランプ大統領に向け、「私たちを刑務所にいれることはできるかもしれないが、私の魂、抵抗、そしてアイデンティティーをはく奪することはできない」と辛らつなメッセージを発しました。
一方新大統領は「今流行りのトランスジェンダーは今後ほとんどみられなくなるだろう」と応酬しています。
フェミニスト視点のホラー映画『サブスタンス』、気候変動がテーマのアニメ『Flow』
アカデミー賞にノミネートされたもう一つの作品は、コラリー・ファルジェア(Coralie Fargeat)監督の『サブスタンス』、ハリウッド女優デミ・ムーア主役のホラー映画です。
若さと美貌で人気を博していた女優が50歳を超えて、容姿の衰えや仕事の減少から、ある「サブスタンス」(薬)で若い自分のクローンを手に入れることから始まるこの映画は「加齢による容姿の衰え」への女性のコンプレックス、さらに50歳を超えた女性が「社会から見えなくされている」という状況を告発しています。
アニメ『Flow(原題)』は、世界が大洪水に見舞われ、居場所を変えるため旅に出ることを決意する一匹の猫のストーリーです。
今回ノミネートされた映画の特徴として、どれも今の社会問題をテーマにしていますが、映画評論家のアナイス・ボルダージュ(Anaïs Bordages)氏によると、これらのテーマは特に北米で受け入れられやすいと述べています。
同氏はまた、『サブスタンス』では実際に「ちょっと忘れられかけた」ハリウッドスター、デミ・ムーアを起用したり、『エミリア・ぺレス』では主役の妻役としてポップスター、セレナ・ゴメスの起用が絶妙だとしています。
北米で評価には「知ってるスター」の起用も貢献
フランス人女優の起用では、主役の女優が「サブスタンス」使用後に「カムバック」するインパクトが薄かっただろうとみています。
よく知っているスターがいつもと違った役柄をすることが、アメリカのオーディエンスには新鮮に映ると評価しています。
3月2日に行われるアカデミー賞の受賞式、果たしてフランス映画が最優秀映画賞に輝くでしょうか?
執筆:マダム・カトウ