2025年1月28日(火)、就任から1ヵ月半、バイル首相(François Bayrou)はテレビのインタビューに答え、税金、移民問題、年金改革、安楽死などについて自身の見解を発表しました。
フランス財政赤字も、家計への「新たな負担」はなし
今月30日(木)から議会で議論される2025年の予算案について、すでにロンバール経済相(Éric Lombard)が表明している通り、「中産階級の購買力を下げるような」新たな課税はないと断言しました。
赤字削減のための予算で前首相3か月で退任
フランスの財政赤字は国内総生産(PIB)の113.7%、国家資産の5.8%に到達しています。
バルニエ前首相(Michel Barnier)は、この赤字をまずは国家資産の5%以内に収めることを目標に、2025年の予算では支出の削減及び課税による600億ユーロ(約9兆7396億円/1ユーロ=約162円)の削減を盛り込んでいました。
予算案は右派左派問わず猛反対を食らったため強行採択に持ち込みましたが、議会の3分の2を占める野党が提出した内閣不信案が可決、内閣総辞職に追い込まれました。そのため、本来なら前年末までに確定するはずの今年の予算がいまだに可決されていません。
移民問題は国民投票の対象ではない
マクロン大統領は新年の演説で、移民問題に関し右派や極右党が訴える「国民投票」について「実行することもやぶさかではない」と示唆しました。
大統領は、そもそも移民問題の何について国民の賛否を問うのか、といった具体的な内容については一切触れていませんが、昨年の国民議会選挙で大幅に議席を増やした極右政党は「フランスで生まれた人へのフランス国籍の付与」や、移民の家族呼び寄せの権利についての見直しを訴えています。
これについてバイル首相は「移民問題は憲法上、国民投票の対象ではない」と、その可能性について全面的に否定しています。ただし国民投票自体については、「国家の運営や経済、社会について国民の意思を尊重する手段」として否定していません。
フランス人は「移民が多すぎる」と感じる「一歩手前」まで来ている
新首相は、国民の極右への支持が増える現状について、フランス人は「自国に移民があふれかえっていると感じる寸前」まできていると現状を分析しています。
具体的には、国民が移民が増えたせいで「自国の生活習慣や文化がもう見失われている」と感じたときに、「反移民感情」が沸き起こり、同時にその時が「数の限界を越えたとき」だと定義しています。
しかしながら、一部の地域ではすでに限界を超えていると認めたうえで、国全体としてはまだ限界にはきてはいないと述べています。
年金改革、ポイント制を支持
年金受給開始年齢を2年引き延ばしたことから、国民にもっとも不評なこの改革について、バイル首相は近々組合との会合を持つ予定です。極左政党はすでに可決済みのこの改革の撤回を要求しているなど、根が深い問題になっています。
バイル首相は、現在の年金計算の仕組みを、かけた期間(四半期の数)と金額の組み合わせである現行のものからポイント制に変更することについて支持を表明しています。
大胆な仕組みの変更の実現は「非常に困難」であるとしながらも、2027年の次期大統領選まで「なにもしないで置いておく」ことはあり得ない、今年度予算が可決次第この問題に着手すると述べました。
安楽死、尊厳死について
死を待つ患者の緩和治療を含む安楽死に関する法案について、首相は「緩和治療は権利ではなく、義務だ」とし、安楽死とは「別問題」として法整備をするべきとの見解を表明しています。
安楽死の合法化が可決すれば、マクロン大統領最大のレガシーになる可能性がありますが、厳しいルールがあるとはいえ、そもそも患者の「自殺」を介助することに反発が大きく、数年にわたり議論が続く安楽死の合法化は難航するとみられています。
過半数なきバイル政府、今年度予算の早期可決へ、分断の右派左派に「責任感」を
今のフランスには「予算がない、議会の過半数もない」、このままいくと国が分断すると危機感をあらわにするバイル首相は、今年度予算案の早期可決に向け現在交渉中の右派左派にかかわらず各党に対し「責任感」を期待していると述べました。
予算が可決するかどうかがバイル政府の存続にも関わることから、議論の動向が注目されます。
執筆:マダム・カトウ