「私の体はあなた達のものではない!」
2024年3月5日(火)、フランス上院下院の合同議会(Congrès) で4日、人口妊娠中絶の自由を憲法で保障する法案が、圧倒的多数の賛成で可決されました。これにより、フランスは中絶の自由を憲法に明記する最初の国となりました。
人工妊娠中絶は「保障された自由」、フランス憲法34条
ヴェルサイユ宮殿(Château de Versailles)で元老院(上院:セナ(Sénat))と下院、国民議会(Assemblée nationale)の合同議会が行われ、「自主的に妊娠を中断する自由の保障」(”la liberté garantie à la femme d’avoir recours à une interruption volontaire de grossesse”) を明記する憲法改正案が、賛成720票、反対72票の賛成多数で可決されました。
女性の権利が脅かされる「世界」に強いメッセージ
フランスでIVG(interruption volontaire de grossesse)と略して呼ばれる「妊娠人工中絶」は、「自分の体のことを自分で決める権利」(”mon corps, mon choix”)としてフランスでは広く支持されており、憲法改正の必要性が議論されていました。
しかしながら、アメリカの一部の州では禁止され、欧州圏内でも極右政党の台頭でその権利が脅かされる傾向が強まっていることから、今回の憲法改正は、フランスの立場を明確にし「強いメッセージを世界に発信」するという大きな意味合いをもっています
憲法改正が行われることはめったにありませんが、今回の合同会議の議長ヤエル・ブラウン=ピヴェ(Yaël Braun-Pivet)氏(国民議会議長)は、議長席に着くと開口一番に「上下院合同会議で女性が議長が務めるのは、フランス史上初めてのことです」と述べ、「私たちフランス国民全員のために、わが国、および世界のすべての女性、すべての娘たちのために決断の時がきました」と宣言しました。
この法案の原案を作ったのは、国民議会議員で「不服従のフランス党」(LFI)のマチルド・パーノ(Mathilde Pano)氏、および元老院議員でエコロジー党のメラニー・ヴォジェル(Mélanie Vogel)氏の両名で、それぞれ下院、上院で法案を提出しています。
18か月間の長い闘いの末、女性の権利に関する条項について憲法改正にこぎつけたことついて、ヴォジェル議員は合同会議で演説し、「これは(中絶という)選択の代償が追放か投獄か死刑かしかなく、隠れてうけた麻酔なしの掻爬(そうは)の痛み、ハンガーと針の痛みを経験したすべての人たちへのメッセージだ」と感激した様子で述べました。
フランスにおける妊娠中絶件数、増加のワケ
フランス国立人口研究所(Institut national d’études démographiques)が把握している数値によると、2022年にフランスでは23万2,000件の人工妊娠中絶が行われ、その数は前年の21年から16,000件増えています。
増減の割合は年齢により異なりますが、過去3年間で15歳~19歳の若年層では減少、25歳~49歳では増加、そして25歳~30歳では人工中絶を行う割合が最も増えています。
増加の原因としてINEDは、2022年に人口中絶できる妊娠期間が12週間から14週間に延ばされたことを上げていますが、それ以上に、社会環境、経済環境の悪化が子供を持つ気持ちをそいでいることが非常に大きいと説明しています。
その証拠に2022年はフランスの出生率が第二次大戦後もっとも低い年でした。
ヴェルサイユ宮殿議会ホール
ちなみに、あまり知られていないヴェルサイユ宮殿内の議会ホール(Salle de Congrès)は、一般の入場券での自由入場はできませんが、ガイド付き入場(visite guidée)は可能です。
ヴェルサイユ宮殿オフィシャルサイトはこちら
執筆:マダム・カトウ