2025年2月18日(火)、パリ市内の移動といえばメトロ、市内のどこに行くにも便利でパリ市民や観光客から愛用されてきましたが、パリ市民及びイル=ド=フランス(Île-de-France)の住民たちの間では、2020年~21年のコロナ禍が終了しても、地下鉄や郊外線RER(フランス高速鉄道網)を避ける傾向が顕著になっています。素晴らしい都市交通手段としてのかつての人気を失ってしまったのはなぜでしょうか?
激混み、悪臭、迷惑行為、しょっちゅう止まる
「なんであんなものに乗り続けていたのかわからない」というセバスチャン(Sébastien)さんは、2021年に「タバコを止めるように」メトロとRERの利用をやめました。
オフィス街デファンス地区の製薬会社で管理職に就く彼は、以前はパリの南の郊外から職場までRERを乗り継いで通勤していました。
2006年に北フランスのリール市(Lille)からパリに引っ越してきた彼は、初めてメトロに乗った際、その「大混雑ぶり」にショックを受けました。まるでリールの一大イベント「蚤の市」が毎日開催されているようだったと、当時のことを嫌悪感たっぷりに振り返ります。
ロックダウンで在宅、解除後「もうRERには戻れない」
コロナ禍で在宅ワークになるまで14年間パリ郊外からRERで通勤していたジャッド(Jade)さんは、ロックダウンが解除され再び出社することになった際、「もうあの通勤電車にはもどれない」と思いました。
10年間毎日すし詰めのRERの中で、夏は汗など体臭に吐き気をもよおし、2回もスマホを盗まれ、痴漢にも何度か遭い、たびたび止まったまま遅延したり、一度は45分も停止したまま閉じ込められたりと地獄のような経験をしたと振り返ります。
自転車通勤を始めた当初は古い自転車に乗っていましたが、その後電動自転車に切り替えて現在も毎日往復20kmの道のりを通勤しています。
それ以来、通勤によるストレスは激減しました。
通勤にかける時間は同じな上、地下ではなく外の空気を吸いながら毎日2時間スポーツをしているわけです。おかげで4㎏も痩せ、毎朝通勤ラッシュでの不機嫌を会社に持ち込むこともなくなったといいます。
ストがきっかけで徒歩通勤に
12番線で通勤していたジャン=ルー(Jean-Loup)さんは、2019年12月の長い地下鉄ストの間に徒歩通勤を余儀なくされたのち、翌月1月も1ヵ月間「ゼロ・メトロ」と名付けたチャレンジを続け、以来1時間以内の移動は徒歩にしています。
メトロの中は、背広ネクタイの暗い顔をした勤め人であふれていて陰鬱として「まるで会社にいるみたい」なのに対し、外をぶらぶら歩くと会社もしくは家に着くころには頭がすっきりしている、とその効能を語っています。
ジャン=ルーさんよると、メトロは「乗らなければ乗らないほど、もっと乗らなくなる」、つまり乗る習慣がなくなると利用しなくなるものとか。
移動手段の多様化も「常に混んでいる」パリのメトロ
「シンガポールとロンドンに住んだことがあるけど、パリほど地下鉄網が町中にいきわたっている都市はない」と語るセバスチャンさん、こんなに便利なパリのメトロ、移動の多様性で電車が空いてくれば「利用者もハッピーになれる」との見解です。
20年前にくらべると自転車や徒歩など移動手段も多様化しているにもかかわらず、いつ利用しても混んでいるパリのメトロ、運賃もグングン上がる中、混雑改善の余地はないものか?メトロ頼みのパリ市民としては気になるところです。
執筆:マダム・カトウ