フランス語には「(値段が)安い」を一語で表せる単語がないのをご存知でしょうか。「高い」には cher(chère)がありますが、「安い」は pas cher(chère)あるいは bon marché と表現するのが一般的です。
こちらの記事によると、かつてはvilという単語で表していたそうですが、現在これは慣用句やことわざの中でしか使われていないといいます。
なぜ「安い」がないのか確かなことはわかりません。ただ言語にはそれを使う人々の文化や考え方が反映されるもの。そこで今回は安いという単語がないことをもとに、フランス人の価値観などについて考えてみました。
安いではなく「高くない」
cher(chère)には、おもに3つの意味があります。
1、大切な、貴重な、重要な
2、(多く名詞の前で)愛する、いとしい、親しい
3、高価な、値の張る、経費のかさむ
(小学館ロベール仏和大辞典より)
「値段が高い」という意味は3ですね。
「安い」には先述のように2通りの表現がありますが、bon marché はあまり使われず、よく耳にするのは pas cher のほう。「C’est pas cher!」などといいます。
直訳すると「それは高くない!」。安いという単語がないために、高いを意味する cher を否定する形で使っているのです。日本人の感覚からすると、なんとも面倒くさい感じがするのではないでしょうか。
フランス人は安さに価値を求めていない?
フランス人の友人と一緒に買い物に行ったときのこと。友人はどんなに値段が安いモノでも店員さんに納得するまで質問して、どう使うか、使ったらどうなるかを考えていました。
買う理由としては見た目や機能性、自分が好きかどうかなどを重視していて、「値段が安いから買う」ことはほとんどなかったように思います。
価値があるなら適正価格を支払う。フランス人は安いことに価値を求めていないのかもしれないと感じました。そしてそれが、フランス語に安いという単語がない一因なのかもしれません。
婉曲的な言い回しがエレガント?
また pas cher のように、否定する形でよく使われる表現はほかにもあります。たとえば
C’est pas facile. 簡単ではない。
C’est pas bien. 良くない。
C’est pas normal. 普通ではない。
…などです。
こちらの記事にもあるように、フランス人は婉曲的な言い回しを好みます。「安い」も直接そう言うのではなく、「高くはない」と表現することで上品な印象を与えたいのかもしれませんね。
単語一つにも国民性
日本人も遠回しな表現は使いますが、エレガントに見せるためというよりは、言いにくいことを直接言わないようにするため、という印象があります。
フランス語の単語一つにもフランス人らしさがある。こんな視点からフランス語を学習してみるのも面白いですね。
執筆:こと