1月26日(金)から29日(月)まで、フランス南西部のアングレームで、恒例の国際漫画祭(Festival international de la bande dessinée d’Angoulême)が開催されます。
アングレーム国際漫画祭
アングレーム国際漫画祭は、今年で第50回を迎えるイベントです。「漫画の聖地」ことアングレームにて、1974年から毎年開催されてきました。
この漫画祭では、例年4日間にわたり、前年度にフランス国内で発売されたバンド・デシネの最優秀作品を決めるコンペや、漫画の見本市、作家のサイン会などが行われます。
2019年には、高橋留美子さんが日本人歴代2人目となるグランプリを受賞し、日本でも注目を集めました(こちらの記事もどうぞ!「アングレーム国際漫画祭 高橋留美子さんがグランプリを獲得」)。
開催直前のスキャンダル
あと数日にせまった今年の漫画祭は、あるスキャンダルのなかで波乱の幕開けとなりそうです。
というのも、漫画祭の事務局が12月14日に、人気を集めるバンド・デシネ作家であるバスティアン・ヴィヴェス(Bastien Vivès)氏の作品を展示しないと発表したためです。
COMMUNIQUÉ DE PRESSE – À PROPOS DE LA SITUATION RELATIVE À L’AUTEUR BASTIEN VIVÈS pic.twitter.com/EUVinkylDR
— Festival d’Angoulême (@bdangouleme) December 14, 2022
理由は、ヴィヴェス氏の作品が、「身体的苦痛」の表現を含み、児童ポルノ禁止法に触れる疑いがかけられているためです。
バスティアン・ヴィヴェス
ヴィヴェス氏は2009年発表の『塩素の味Le goût du chlore』(2013年、原正人による邦訳あり)でアングレーム漫画祭の新人賞を受賞し、一躍有名になりました。
2011年に発表した小説『ポリーナPolina』は、若い女性ダンサーとコーチのストーリーで、映画化もされるほど人気を集めていました。
しかし、同年に発表した『怒りのメロンLes Melons de la Colére』は、エロティックな表現を含むバンド・デシネで、クルチュラ(Cultura)やジベール(Gibert)など大手の書店が、販売を取りやめていました。
とはいえ、2015年発表の共作『ラストマンLastman』は、インスタグラム上でのストリップを含むにもかかわらず、再びアングレーム漫画祭で最優秀シリーズ賞を受賞するなど、評判は健在でした。
署名活動による出展とりやめ
今回ヴィヴェス氏の作品の展示が取りやめになったのは、アングレーム芸術学校(l’école d’art d’Angoulême)の教師と生徒などの運動によるものと言われています。
特に『怒りのメロン』(2011年)や、『小さなポールPetit Paul』(2018年)が児童ポルノにあたる表現を含むとして、出展禁止を求める署名活動がオンラインサイトChange.org上で行われました。
議論の場に
会期直前の決定となったため、ヴィヴェス氏の作品が展示される予定だったアングレーム紙博物館(Musée du Papier d’Angoulême)の会場は、代わりの作品展示などは行わないことになっています。
しかし、協働主催者のひとりソニア・デシャン(Sonia Déchamps)氏によると、会場は本件にかんするディスカッション会場となる予定です。
ディスカッションは、性表現にかんする表現の自由や、知る権利などをテーマとして、シャルリー・エブド紙などに作品を出しているプレス漫画家ココ(Coco)氏や、バンド・デシネ研究家のブノワ・ペータース(Benoît Peeters)氏などが招かれる予定です。
コンペや作品展示のみならず、漫画またバンド・デシネの倫理について考えるよいきっかけとなりそうです!
執筆あお
Festival international de la bande dessinée d’Angoulême 2023 公式HP