３月26日（金）、コロナ禍が「日常」に入り込んで１年が経過しました。感染の心配のみならず、ロックダウンによる行動制限やテレワークからくるストレス、失業への不安など、ジワジワとフランス人の「心」への影響が顕著になっています。そのため、心理カウンセリング費用の一部を医療保険で負担することが発表されました。
2021年１年間で４回まで《心理カウンセリング》に保険適用
フランスの民間の保険業界を代表する、フランス保険連盟（Fédération Française de l’assurance : FFA)の会長、フローランス・ルストマン（Florence Lustman）氏は22日（月）、「国民が心理カウンセリングを気軽に受けられること」の重要性が高まっているため、その費用の一部に健康保険を適用させる用意があると発表しました。
同氏は「フランス国民の精神的な苦悩は増加の一途をたどっている」と指摘し、事態改善のためには保険業界が協力して対処する必要性があることから、フランス保険連盟の他、共済組合（mutuelles) 、労使共済制度（Institutions de prévoyence)も参画しています。
心理カウンセリング費用は現在、基礎医療保険では全くカバーされていません。共済組合が提供する補足医療保険（assurance complémentaire santé）でも無条件に返金されるわけではありません。
現在、心理カウンセリング費用負担を提供している共済組合は全体の４分の１ほどで、一回のセッションで平均35ユーロ（約4,515 円/１ユーロ＝約129円）までカバーされます。
保険がおりる条件としては、ホームドクター（主治医）の処方が必要となります。
今回フランス保険連盟は「個人負担は一切なしで１回60ユーロ（約7,740円）まで、１年間で４回まで」保険適用にすると発表しています。共済組合も「最低でも４回、医師連盟、心理カウンセラーらと協議をした上で」条件を定義すると、改善に前向きな姿勢を見せています。
発表の陰に《コロナ禍中の保険料値上げ》
共済組合が2021年の保険料値上げを強行したことに怒りを隠せないヴェラン保険相は、今月中旬、コロナ禍で政府が負担した医療費への特別協力金として15億ユーロ（約1,937億円）を保険業界から徴収すると「脅し」をかけています。
保健相によると、昨年2020年１年間の共済組合の費用負担は全体としては減少しています。
コロナ感染者への費用負担は確かに増えたものの、多くの国民は緊急性の低い治療や通院を控えたり、大病院などの病床逼迫で、手術や精密検査がキャンセルまたは延期になったことが理由に挙げられます。
保健相の「呼び出し」前の対策？
そういった状況にもかかわらず共済組合は保険料を値上げしたわけですが、組合側は「コロナ感染者や感染防止への支援を大々的に行った」ことを強調し、さらに「昨年できなかった治療が今年にずれ込むことから、今年の費用負担額の大幅増を見込んでいる」と反論しています。
そのため、今回の心理カウンセリングの費用負担には、保健料値上げに関する政府からの「呼び出し」を避ける思惑があるのではないかと報道されています。
１年間「仕事だけ、楽しみなし」の生活
フランス国民の過去１年間を振り返ると、昨年３月中旬から約２ヶ月間の厳重なロックダウン、10月末から２度目のロックダウン、夜間外出禁止、個人の集まりの人数制限、商店閉店、海外への旅行禁止、そして、１週間前から地域別のロックダウンと、窮屈な生活を強いられています。
ほぼ全ての経済活動が停止した最初のロックダウンよりは緩い措置とはいえ、２度目のロックダウン以降、通勤や通学は許可されていますが、飲食店は閉店、映画館も閉鎖、イベントもありません。
つまり「仕事だけが許可され、楽しみはなし」の生活が続いています。
友人と集まったり、家族のいる地方に遊びに行くことすらも制限されており、孤独感から精神的に病む人、また、狭い都会のアパートで育児や仕事を行うストレスから家族との衝突、ひいては家庭内暴力、離婚に至るケースが増えています。
さらに、会社の倒産や失業など経済的な不安や漠然とした将来への不安、感染の心配など、長期化するコロナ禍でフランス国民の精神的負担は募るばかりです。
執筆：マダム・カトウ
