フランスの《バゲット》が2022年ユネスコ世界遺産候補のワケ

2021.03.30

フランスのバゲットが来年の世界遺産候補に

3月30日(火)、2022年のユネスコ世界遺産(patrimoine mondial de l’Unesco)の「無形文化遺産」候補にフランスを象徴するパン、「バゲット」が選ばれたと文化相ロゼリン・バシュローは発表しました。

 

フランス国民を最も象徴する《バゲット》

「バゲットはたった4つの材料(小麦粉、水、塩、イースト菌)から作られるシンプルな食べ物ですが、フランス人の食事に欠かせません。パン職人が自分の「味」を出すのには何年もの修行が必要な「高貴」な食品とも言えます」。

現在、新型コロナに感染し酸素治療で入院中のバシュロー大臣は、病室からこのように今回の選抜についてのコメントを発表しています。大臣はまた、もしバゲットが世界遺産に登録されるとしたら、「最も多くのフランス国民が共有する日常生活の一部そのものが、《大いなる遺産》であることを認識することになるだろう」とも語っています。

 

年々減り続けるフランスのパン屋さん

20世紀、映画や広告などを介し、ベレー帽をかぶり「バゲット」を手にした「フランス人」が世界中に広まりました。それだけフランス人と切っても切れないバゲットをつくるパン屋は、実は危機的な状況に陥っています。

1970年にフランス全国で55,000軒、住民790人当たり1軒あったパン屋は、現在35,000軒で住民2,000人に1軒まで減ってしまいました。そしてこの現象は特に過疎地で顕著に現れています。

理由の一つは、以前は職人が一本一本作られていたパンが機械化された工場で大量生産されるようになり、スーパーなどの大型商業施設で安価に買えるようになったことです。

パン職人不足、若者が敬遠

他に候補に上がった「パリの伝統的な亜鉛の屋根」(toits en zincs de Paris)や「アルボアのぶどう収穫祭り」(fête vinicole en Arbois)を制して「バゲット」が来年のフランス候補に選ばれた経緯について、フランスパン屋お菓子屋総同盟(Confédération nationale de la Boulangerie-Pâtisserie Française)の会長ドミニク・アンラクト(Dominique Anract)氏は、「我々の職人技が高く評価されることでパン屋という職業が再認識され、この職業に就こうという若者が増える事を期待している」と語っています。

早朝から仕込みを行う肉体労働のパン職人の仕事は、近年若者に敬遠され、常に人手不足が続いています。危機感を持った連盟は、今回の立候補を4年かけて準備しました。

パン屋がない!過疎地では自動販売機も登場 変わるパン職人

パン職人不足に加え、地方の過疎地では人口減により収益が圧迫され閉店に追い込まれるパン屋が増えています。

そこで、フランス東部モーゼル地方(Moselle)のジャン=ルイ・エシュト(Jean-Louis Hecht)氏は、2014年、バゲットの自動販売機を発明し、既に地元で20台ほど設置しています。氏は更に特許を取得し、自販機はロシアや日本など海外にも輸出されています。

自販機を設置することで24時間の販売が可能になります。

しかも、購入者がお金を入れると半焼のパン生地を数分で「カリッ」と焼きあげてくれるこの機械のおかげで、パン屋は週末長時間店を開けている必要がなくなり、住民は毎日焼きたてのパンを車で数キロ走って買いに行く手間が省けます。

また、出店せずに複数の場所で販売できるため、売り上げを大きく伸ばし「労多くして益少なし」の「町のパン屋さん」から「実業家」になる人も出てきています。

 

「職人技の継承を」世界遺産認定に多くの職人が期待

ユネスコの無形文化遺産は、毎年世界中の候補から100件近くが選ばれますが、それ以前にまずは国内の候補に選抜される必要があります。

フランスにある何百という職人技や有形文化遺産とともに、国内での文化遺産目録に登録された後、有形無形文化遺産評議会(Comité du Patrimoine ethnologique et immatériel :CPEI)によってユネスコへの候補に値するかの評価を受けます。

当然パン職人達の賛同を得ることも条件の一つですが、パリの屋根職人同様、職人たちはその技の継承を望んでいます。

執筆:マダム・カトウ

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