前回は母音と子音についてお伝えしました。今回は、なぜ子音だけの発音がむずかしいのか、その理由を探りましょう。日本人にとってフランス語の発音がむずかしいのは、”V” や “R” など日本語にない音があるから?実は、それだけではありません。日本語にある音でも実際に発音するのがむずかしいこともあるんです。それには音の配列が関係しています。
言語音とその配列
言語は、その言語内にある音を並べて単語を作っています。 たとえば “pom”(国際音声記号ではpɔm)と発音されるフランス語の pomme(=りんご)は、”p”、”o”、”m” が順に並んでできていてます。しかしその3音を並べ替えた “mpo” や “opm” と発音されるような単語は、フランス語ではありえません。
pom・・・・〇
mpo, opm・・・×
なぜなら言語内にある音は自由に組み合わさっているのではなく、可能な並べ方が規則のように決まっているからです。そしてその規則は言語によって異なります。つまり、音の配列は言語ごとに決まっているのです。
それでは、フランス語と日本語の「子音と母音の配列」に焦点を当てて見てみましょう。
フランス語の子音と母音の配列規則
フランス語では「子音の連続」も、「子音で終わる」ことも可能です。
フランス語の配列 | 例 |
---|---|
CV | chou (ʃu) キャベツ |
CVC | pomme (pɔm) リンゴ |
CVCC | courge (kuʀʒ) カボチャ |
CCV | blé (ble) 小麦 |
CCVC | fraise (fʀɛz) 苺 |
etc. |
(C:子音 V:母音)
配列が豊富なので組み合わせも豊富で、フランス語の単語はバラエティーに富んでいます。
V + CCV + CV・・・abricot (abʀiko)=アプリコット
CCCVCC + VC・・・structure (stʀyktyʀ)=構造
日本語の子音と母音の配列規則
一方日本語は、基本的に子音の後には母音が必要で、主に「子音+母音の配列」でできています。
日本語の配列 | 例 |
---|---|
CV | 木(ki) |
CVN | 金(kin) |
etc. |
(N:ン)
このように日本語では、限られた配列の組み合わせで単語ができていて、子音+母音を繰り返しています。
CV + CV・・・かき(kaki)
CV + CVN・・・みかん(mikan)
日本語の配列は基本的に子音の後は母音で。この日本語配列の癖が、フランス語を話す時にも無意識にでてしまいます。
実は、そのことが日本語なまりの元凶ともいえる発音を作り出しています。
配列のむずかしさ
外国語を発音するむずかしさには大きく分けて2つあると、『「コーラス」、「ハート」、「授業」、仲間はずれはどれ?~音声学のすすめ』でお伝えしました。1つ目は音を作るむずかしさ。そしてもう1つは音の並び方や、音を区別する機能などの違いによるむずかしさでした。
たとえ発音を知っていても、複数の音を流れの中で実際に発音するのは困難です。母語にはない配列は、母語にある音でできていても発音しにくく、外国語の発音をむずかしいものにしています。
日本語なまりの配列
配列がむずかしいとはどういうことか、具体的にみてみましょう。たとえば先ほどのpommeに使われる3つの音は、日本語にもあります。ところが、日本人がフランス人のように発音するのは少しむずかしいかもしれません。なぜなら “pom” は日本語にある音でも日本語ではありえない配列だからです。
フランス語は音の配列として “m” で終わることが可能な言語ですが、日本語は許容しません。日本語は母音あるいは「ン」で終わる言語なのです。
では日本語にはない配列の “pom” を、日本語話者はどう発音するでしょう?おそらく “pom” の後に “u” をつけ “pomu” と発音します。母音で終わる日本語の配列のようにすることで発音しやすくするんです。
《フランス人の発音》pom・・・CVC
《日本人の発音》pomu・・・CVCV
同様のことは、子音の連続にも起こります。たとえば “s” と “p” が並ぶ “espas(国際音声記号ɛspas)” と発音されるespaceという単語を見てみましょう。フランス語はこのように子音を並べることができますが、日本語は基本的に子音+母音の組み合わせでできていて、子音の連続が制限されています。そのため日本語話者は子音を続けて発音することに慣れていないので、”s” と “p” の間に母音 “u” を挿入して発音してしまうんです。
《フランス人の発音》espas・・・VCCVC
《日本人の発音》esupasu・・・VCVCVCV
日本語は音の配列が限られていて、日本語話者は子音だけの配列に慣れておらず、子音だけの発音がむずかしいんです。そのためフランス語を発音する時でも、日本語の配列規則に合うような発音をしてしまうんです。
どうしても日本語にない発音に気を取られがちですが、フランス語の発音を上達させたいなら、日本語にない配列に慣れる必要がありそうです。子音の連続や子音で終わる発音の練習もぜひ取り入れてください。
前回お話した子音単独の音をイメージしながら、子音の後に母音を加えないよう意識して発音するだけでも、日本語っぽさが抜けて聞こえますよ!
まとめ
日本語はフランス語より音の数が少ないだけでなく、その配列も少ない言語です。上手に発音するには、日本語にない音や音の配列を習得する必要があります。そう聞くとハードルが高い、と感じるかもしれませんが意識するだけでも上達しますよ!
次回は音の単位について。皆さんもご存知の俳句ですが、「五・七・五」って何を数えているのでしょう?答えは次回お伝えします!
執筆:Anne