フランスの出版界『5月の恒例』といえば、新年度版の辞書発行!今日は日本ではあまり馴染みのない、フランスの辞書のお話です。
フランスの2大辞書
今年も5月19日にLe Petit Robert (ル・プティ・ロベール)、5月26日にLe Petit Larousse (ル・プティ・ラルース)の2017年版が刊行されました。「プティ」と言っても片手で持つにはちょっと重いこれらの辞書。どちらも評価は高く、大抵のフランスの家庭にはどちらか一冊あるのが常です。
今年はどちらも約150語ほどの新語を加えたことが話題となっています。例えばLe mondeの記事、Le Parisienの記事、 Le figaroの記事などなど。
ざっと見ると
・「へー、これまだ辞書に載ってなかったんだ」と思うほどよく聞く言葉
・聞いたことはないけれどなんとなく意味の分かる言葉
・聞いたこともなければ、意味も想像がつかない言葉
・・・と様々な面々。例を挙げてみましょう。
よく聞く言葉
youtubeur, tweeter, selfie, végan, émoji, yuzu, phô, wrap, pad thaï, s’enjailler など。
絵文字とか柚子(ユズ)はもともと日本語ですから、聞いたことがあって当然です。柚子に関しては以前「フランス語になった日本語」に書いたことがありますが、とうとう辞書入りを果たしたわけです。phô はヴェトナム料理のフォーですし、pad thaï はタイの麺炒め。wrap は小麦かトウモロコシの粉で作ったクレープで具を巻いた料理です。ユーチューバー(youtubeur)やツイートするという意味の動詞 tweeter、セルフィ(selfie)には説明が要らないでしょう。végan もフランス語だとちょっと発音が違いますが、「ヴィーガン」と言えば日本でも通じる人が多いのではないでしょうか。またs’enjaillerという動詞は最近耳にするようになった印象でしたが、若い世代ではもっと前から広がっていたようです。意味はs’amuser (楽しむ)のさらに程度が強い感じです。
聞いたことはないけれど意味はなんとなく分かる
geeker, twittosphère, covoiturer, ubériser, などがあります。
geeker は英語のgeek (PCやヴィデオゲームオタクというニュアンス)から来ていて、geekのようにゲームやPC などの画面の前で時間を費やすという意味の動詞です。twittosphère はそのままツイッターの世界という意味の名詞。ツイッター上で話題になっているよね、というような文脈で使うそうです。covoiturer は「[Co-]の増えてきた最近のフランス社会」で話題にしたcovoiturage の動詞。車に乗り合うとでも訳せばいいでしょうか。ubériser は最近タクシー業界の反発を大きく受けた、自動車配車システムUber(フランス語ではユベールと読みます)から来ています。それが動詞になると「新しい発想と技術で、既存の経済システムに打撃を与えたり変化を起こしたりする」という意味で使われるそうです。
聞いたこともなければ意味の想像もつかない言葉
これも結構あります。ところが、ここで口を出してきたのが12歳の息子。なんとspoiler, tuto, troller あたりは「学校で毎日のように聞くよ」というではないですか。え、そうなの?…ということで、以下は息子の指南。
spoiler は同じスペルで動詞と名詞があり、動詞はそのまま「スポイレ」と発音しますが、名詞として使う時はまるでspoileur と書いたような発音「スポイラー」を使うんだとか。意味は英語と同じで、ダメにするという意味。特に映画や本の結末を、まだ読んでない人に暴露してしまうことをさします。名詞のspoiler(スポイラー)は、このspoiler(スポイレ)をする人のこと。tuto は英語のtutorialのこと。特にゲームの説明を指すのだそうです。troller は要するにフォーラム荒しをすることを指すようです。息子よ、勉強になりました。
ところでただひとつ、息子が目を剥いた単語はtomate coeur-de-boeuf (直訳では「牛の心臓トマト」)。これは最近見るようになったトマトの種類のひとつで、非常に大きく表面がいささか波打った形状をしているものです。記事のために写真をと思ったのですが、なぜかこういう時に限って店先に並んでおらず撮れませんでした。
まとめ
tomate coeur-de-boeuf は一家の食卓を預かる私にとっては、それこそ「日常語」のひとつ。ようやく親の面目躍如、となった次第です。ふぅ。
執筆 冠ゆき