いよいよ本日5/21は前稿でお知らせした「美術館の夜」が催されます。ヨーロッパにいらっしゃる方は、ぜひいつもと違う夜の美術館を楽しんでみてください。
musée(ミュゼ)の語源
さて美術館と訳されている言葉、フランス語だとmusée(ミュゼ)。この語源がギリシア神話のゼウスの娘たち(ミューズ)であることは良く知られています。ミューズは音楽(musique)の語源でもありますね。ミューズは9人で、それぞれ詩や音楽、ダンスなどの文芸を司るとされています。そのミューズの神殿がミュゼというわけです。
「美術館」なのか?「博物館」なのか?
たしか作家の池澤夏樹さんもどこかのエッセイで指摘していましたが、日本語にはこのフランス語の musée を一言で言い表す単語がありません。というのも「美術館」と呼ぶのがしっくりする「ミュゼ」もあれば、「博物館」と呼ぶ方がしっくりする「ミュゼ」もあるからです。仕方がないので私は日本語に訳すとき、すでに日本語のガイドブックなどに記載されているものはできるだけそれに合わせ、そうでないものは展示しているものの性格で訳し分けています。例えば
Musée de l’Orangerieはオランジュリーミュゼ → オランジュリー美術館
Musée d’Histoire naturelle は自然史ミュゼ → 自然史博物館
Musée de l’Hommeは人類ミュゼ → 人類博物館
Musée de l’Armée は武器ミュゼ → 武器博物館
といった具合です。中には名称にmusée という言葉が入っていないミュゼもあります。
Palais des Beaux-Arts de Lille (リール美術の館)→ リール美術館
実は今晩のイベントは、フランス語では「La nuit des musées」=「ミュゼの夜」という名称です。つまり「美術館の夜」と訳しましたが、美術館とは限らず「博物館の夜」でもあるわけです。どちらにするか迷った末前者を選んだのですがスペースの関係上、前回は書けませんでした。
ところで、仕事上プレス発表に招かれることがよくあります。その中でも、実は私が一番好きなのはミュゼのプレス発表です。何が良いかというと集まった記者が皆、取材ノートを広げたりICレコーダを片手に一言も説明を聞き逃すまいと耳を傾けるその勤勉な雰囲気。この緊迫感がたまらないのです。
まとめ
そういえばギリシア語のミューズの語源ですが、一説には母である記憶の女神ムネモシュネの「記憶(mémoire)」と関連すると言われています。そう考えるとミュゼに足を運ぶ人たちが、目を凝らし、一心に耳を傾けるのもむべなるかな… なのかもしれませんね。
執筆:冠ゆき