「美食の国」とはフランスを形容する際によく使われる言葉です。実際に素晴らしいレストランが多く、また食への関心も非常に高いです。フランス人が集まって食事をすると、どのレストランがおいしかったとかどの店の野菜の質が良いなど、食についての話が始まります。
一方、フランスは冷凍食品大国でもあります。家庭消費に限った市場規模は年間66億ユーロ(1ユーロ160円換算で1兆円超え)にのぼり、世帯あたり年間220ユーロを冷凍食品に費やしている計算です(ともに2022年の統計)。そこで今回はこの国の冷凍食品事情をご紹介します。
冷凍食品専門のスーパーがある
フランスで一般消費される冷凍食品の内訳を見ると、アイスクリームなどのデザートものや嗜好品は総売り上げの1/4にも満たず、3/4以上が「食事用」だそうです。特に冷凍ピザの消費量はアメリカに次ぐ世界2位で、人口がフランスの約2倍である日本や約20倍の中国・インドよりも多いです。
2022年の統計によると、フランスの98.6%の食料品店が冷凍食品を販売しているとのこと。日本では珍しい、冷凍食品に特化したスーパーも多くあります。最も知名度が高く店舗数も多いのがPicard(ピカール)で、フランス国内に約1000店舗を展開し冷凍食品販売シェアの20%以上を占めています。
他にもブルターニュ地方やノルマンディ地方が中心のEcomiam、配達にも力を入れているThirietなど、専門のチェーン店がたくさん存在します。
冷凍庫しかないPicardの店内は最初は驚く
Picardのおすすめ商品
専門スーパー最大手のPicardには約1200の商品があるそうです。私が試したことがあるのはそのほんの一部ですが、いくつかご紹介します。
「調理済み食品」はおいしいが高いものも
オーブンや電子レンジで加熱するだけでいただける調理済み食品。フランス料理定番のエスカルゴやキッシュ、ミートパイなどいろいろな種類があり、観光地の下手なビストロよりも美味しいと思えるものも多いです。ミシュランシェフが監修した手のこんだ料理などもあり、よく考えられているなと関心することも珍しくありません。
ただこうした商品は比較的高価で、フォワグラなど高級食材を使っていたりすると30ユーロを超えるものもあります。毎日の食卓向けとしてはあまり現実的とは言えず、パーティーなどみんなでワイワイ食べる料理と考えるのが良いかもしれません。アペリティフのおしゃれなおつまみにちょうど良いオードブルやカナぺなどもいろいろあります。
冷凍食品とは思えないような豪華な商品が並ぶ
スープやパンは間違いがない
鍋で温めるだけのスープや、オーブンで焼くだけの冷凍パンもラインナップされています。スープはミネストローネやパンプキンスープのような定番のものから、栗やナッツを使った甘めのもの、アジアンテイストのものまでさまざま。個人的にはどれも美味しいです。クロワッサンやバゲットなどの冷凍パンは、さすがパンの国だけあってパン屋さんで買ったものと間違うレベルです。
実は街のパン屋さんでも、クロワッサンやパンオショコラなど技術と手間が必要なものは、工場で作られた冷凍品を店内で焼いていることも多いです。パン屋さんで販売されているViennoiserie(クロワッサンも含む菓子パンのこと。ヴィエノワズリー)の約7~8割が工場で作られたものという統計もあります。ですからスーパーの冷凍パンが街のパン屋さんと同じレベルなのは、あながち偶然のことではないのです。
肉や野菜など、素材の冷凍品
素材そのものを冷凍した商品もたくさんあります。例えばほうれん草は茹でたものが3センチ程度のブロック状になっていて、温めて味付けすれば手軽におひたしが作れてしまいます。
生で買うと高いベリー系の果物(フランスではまとめて fruits rouges(赤い実)と呼ばれます)も、冷凍品をそのままミキサーにかければ手軽にスムージーができます。
魚や肉も冷凍されて売っています。冷凍を前提に処理されているのか、解凍時に美味しさが保たれている気がします。
冷凍された食材は使いやすい
一流パティシエも認めるデザート
個人的にPicardで一番のおすすめがデザートです。アイスクリームやシャーベットはもちろん、手のこんだ飾りつけをしたケーキのほか最近では大福アイスやクレープなども揃っています。
特におすすめなのがマカロンで、どこのパティシエの作かと思うほど本当においしいです。以前テレビで有名シェフがさまざまなマカロンのブラインドテストをして、Picardはピエール・エルメに次ぐ2番目にランクイン。マカロン老舗のラデュレよりも上という結果でした。
有名パティスリーの5分の1くらいの値段で十分に美味しいマカロン
なぜフランスで冷凍食品が人気?
美食の国フランスでなぜ冷凍食品が人気なのでしょうか。あるフランス人の友人は、作るのは面倒だが、いつも同じようなサラダと茹でたパスタにバター(フランスの手抜き家庭料理の定番)だけでは耐えられないので、そういう時に冷凍食品に助けられていると言います。食に対する関心が深いがゆえに、手間をかけなくても美味しく食べられる冷凍食品が流行るのかもしれません。
他の知り合いは、料理はプロのするものと割り切っていて、レシピを見ながら手の込んだ料理にトライするという習慣があまりないと言います。たしかに平均的なフランスの家庭料理は、日本のものほど手が込んでいないように感じます。かといって高いレストランに頻繁に行くことは現実的でなく、シンプルな家庭料理とプロの料理の間をうまく埋めるのが冷凍食品なのではと言います。
また日本と同様フランスでも核家族化や単身化が進んでいて、野菜を丸ごと買うと食べきれないことがあります。料理に少しだけ入れたい時などに、適量を使える冷凍品が重宝するというのもありそうです。
Picardの商品に合うワインやスナックが置かれているのはフランスらしい
Picardは日本にも進出
Picardは日本にも進出しており、小規模店舗も合わせて現時点で46店舗が展開されているそうです。輸入品のため少し値は張りますが、日本企業の冷凍食品にはない商品も多いので機会があればぜひお試しください。日本の冷凍食品も非常によく考えられていますが、フランスのものも負けず劣らず満足できるのではと思います。
執筆 Takashi