ブルゴーニュ地方は、フランス東部のディジョン(Dijon)から南に向かってボーヌ(Beaune)、ニュイ=サン=ジョルジュ(Nuits-Saint-Georges)を経てマコン(Mâcon)へと細長く続く一大ワイン産地です。この地方のブドウ畑の並びは、昔から多くの巡礼者や修道士、商人たちが通った道の歴史の上に成り立っています。
世界遺産にもなった「クリマ」
ブルゴーニュのブドウ畑は、石灰岩と泥が層となる丘の斜面に広がっており、この土壌の組み合わせがワインの品質に大きな影響を与えます。
土壌、斜面の角度や方角、風の当たり方、日当たりの違いなど、畑ごとのわずかな個性の違いをブルゴーニュでは「クリマ(Climat)」と呼びます。隣り合う畑でも、向きが少し異なるだけでブドウが浴びる光の量や風の強さが変わり、これがワインの香りや舌触りに細やかな違いを生み出すのです。これはその畑で何百年もの間培われてきた固有の環境と、人の手が加えてきた歴史全体を意味します。
ディジョンからボーヌにかけての主要な産地にあるクリマは、その歴史的・文化的な価値が認められ、2015年にユネスコ世界遺産リストに登録されました。この世界遺産にはブドウ畑だけでなく、石を積み上げた壁や畑を細かく区切った境界線なども含まれており、これら全体が文化的な景観として大切に守られています。
修道士たちの功績
ブルゴーニュのワイン造りの基礎を築いたのは、シトー派やクリュニー派など中世の修道士たちです。彼らは畑を注意深く観察し、土壌や斜面のわずかな違いを記録して区画を細かく分け、ブドウ栽培とワイン醸造の知識を体系化しました。
彼らの功績は現在のクリマという考え方に生きており、今日のブルゴーニュワインの骨格となっています。
ブルゴーニュワインの特徴
赤ワインの主な品種はピノ・ノワールです。このワインはチェリーなどの赤い果実やスミレのような花の香り、時には森を思わせるニュアンスが現れます。タンニンはしなやかで、口に含んだ後の余韻が長く細く続きます。
白ワインの主な品種はシャルドネですが、同じシャルドネでも畑によって味わいが大きく異なります。シャブリのような冷涼な地区のワインからは、柑橘類や白い花のような香りがします。ムルソーなどブドウがよく熟する南部の地域で造られたワインからは、蜂蜜やナッツのような複雑な香りが加わります。
ブルゴーニュと地元料理のペアリング
牛頬肉や肩肉を赤ワインでじっくり煮込んだブッフ・ブルギニョン(Bœuf Bourguignon)は、酸味と細やかなタンニンのピノ・ノワールと相性抜群。ハーブやベーコンの香りには、果実感よりも土や下草のニュアンスを持ったワインが好相性です。
ブルゴーニュ風エスカルゴ(Escargots à la Bourguignonne)のガーリックバターとパセリの香味には、樽での熟成をほどよく感じるシャルドネが頼もしい相棒。レモンを添えるなら、シャブリなどの果実味感のあるワインを。ムニエール的な香ばしさには、マコンなどの熟成によるナッティさがあるワインを。
ブルゴーニュのチーズといえばエポワス(Époisses)です。マール・ド・ブルゴーニュ(ぶどうの搾りかすを発酵・蒸留させたブルゴーニュのブランデー)で洗って作られ、旨みとクリーミーさが特徴です。ムルソーやシャサーニュなど、リッチな白ワインがおすすめです。
ブルゴーニュのおすすめポイント
Hôtel-Dieu des Hospices de Beaune(オスピス・ド・ボーヌ)とワイン祭り
コート=ドール県南部のボーヌにある、タイル屋根が目印の15世紀の施療院。豪華な大広間や薬局、厨房が当時の面影をとどめていて、まるで生きた博物館です。
毎年11月の第3日曜日には、所有する60ヘクタールのブドウ畑で造られたワインの慈善オークションが同所で行われます。これは「栄光の3日間(Les Trois Glorieuses)」と呼ばれるワイン祭りの一部。この週末には伝統衣装のパレードや地元料理の屋台出店などがあり、街全体が祝祭の空気に包まれます。
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Roche de Solutré(ソリュトレの断崖)
ブルゴーニュ南部のマコネ地区にはソリュトレの断崖(Roche de Solutré)と呼ばれる白亜の岩山があります。頂上まで登ると、段々畑とプュイィ=フュイッセのブドウ畑が一望できます。風の抜ける尾根で飲む一杯は、同じシャルドネでも日照と標高の違いを体で理解させてくれるでしょう。
終わりに
ブルゴーニュのワインは、自然と人の手が積み重ねてきた時の賜物です。丘の畑、石垣の小径、静かに熟す樽。そのすべてがワインに息づいています。グラスを傾けながら、クリマが語るこの土地の物語をゆっくりと味わってみてください。
執筆 Quiyo(キヨ)













